『電脳コイル』で知られる磯光雄監督の15年ぶりの最新作となるオリジナルアニメ『地球外少年少女』。
Netflixにて世界同時配信中、そして2022年1月28日より前編「地球外からの使者」が、2月11日より後編「はじまりの物語」が劇場上映も行われました。
月で育った地球嫌いの厨二病少年・登矢を中心に「宇宙」や「AI」といったSF要素を盛り込みながら、少年少女たちの成長や葛藤をパワフルに描いた本作。
原作・脚本・監督を務める磯光雄監督は「若い世代へもう一度宇宙のワクワクを伝えたい」とインタビューで語っています。
それもそのはず、現在の宇宙は手が届きそうで届かない「近くて遠い存在」です。実際に何度も人類は宇宙へ進出していますが選ばれた一握りのみ。その存在を把握していても、自分が宇宙へ行っている姿はあまり想像することはありません。
かつて、その場所へ辿り着く事すら困難だった時代と比べると「ロマン」が薄れてしまっているのかも知れません。
本作はそんな「宇宙」への憧れやワクワクを丁寧に表現し、私達に宇宙への「期待」を与えてくれる作品です。
それに加えて、作中の「少年少女たち」、そして画面の前にいる私達を新たな段階へと「進化」させ、人類への「希望」を抱かせるきっかけとなるSFアニメのマスターピースなのです。
※この記事には多少のネタバレが含まれています。
本作は日本製の商業用宇宙ステーション「あんしん」にて、地球で育った子どもたちと月で育った子どもたちが出会い、とある事件に巻き込まれていく様子が描かれていきます。
宇宙ステーションといえば本来、特殊な環境下での科学実験や地球の観察などを行う施設です。
本作に登場する商業用ステーション「あんしん」は宇宙ホテルとも呼ばれており、観光利用などを主とした施設です。実社会でもアメリカなどで商業宇宙ステーション建造の計画が発表されており、実現可能な舞台に設定することで視聴者により親近感を与えています。
とある事件をきっかけに閉鎖されたステーションという狭い場所で繰り広げられる冒険や少年少女たちの物語と、広大で宇宙のギャップもさることながら、本作の重要なテーマの1つが「宇宙へのワクワク・ロマンの再確認」というポイントです。
磯光雄監督は、多くの作品で描かれてきた「重厚長大な宇宙」(宇宙戦争や地球の危機などを主題とする)ではなく、21世紀ならではの「軽い宇宙」を表現したかったと各インタビューで語っています。
宇宙はコンビニやスマホがある普通の場所!? 磯光雄監督が『地球外少年少女』で描きたかった宇宙とは?
その言葉通り、これまでのいわゆる「宇宙モノ」とは違う描き方で視覚的にも飽きることのない「楽しい宇宙」表現されています。
例えば、商業用ステーション「あんしん」の外観や内装、部品へのこだわりです。
名称もコンプライアンス時代にぴったりな名前ですが、瓦屋根や大きなカニの模型をあしらったユニークな外観や、現実にありそうな企業(出資者?)の看板がひしめいていたり、コンビニエンスストアも完備していてポップな仕上がりに。
ステーション自体の表面や防壁には「紙」を元にした素材が使われており、従来の重々しくてかっこいいモノからスタイリッシュで最先端なイメージになっています。
また少年たちがAIドローンを使って戦闘をするシーンでは、ハッキングなどを駆使したバトルが繰り広げられ、従来のアクションシーンの面白さとゲームをプレイしているかのような新鮮さがマッチして今までにない感覚を味わうことができます。
物語前半は磯監督らしい近未来と宇宙の表現に思わず心を掴まれてしまいます。
このように従来の「宇宙」イメージから脱却し、とっつきやすいビジュアルや設定にすることによって、現代を生きる若者たちだからこそ認識できる「宇宙との付き合い方」が提示されています。
作中には人気配信者の女の子キャラクターが登場しますが、彼女の宇宙観こそがリアルな現代人の反応かもしれません。
しかし、楽しくてポップなだけが宇宙ではありません。宇宙とは本物の大自然であり、スキを見せると命を落としかねない危険と隣り合わせの空間でもあります。
当たり前の事ですが、宇宙へのロマンを感じるにあたり重要な価値観です。物語中盤では、ある事件に巻き込まれた主人公たちがそんな大自然の中でサバイヴしていく姿が描かれています。
宇宙という自然がもたらす危機を、人間の知恵を使って乗り越えていくスリリングでロマンあふれる映像に圧倒されました。
こだわり抜かれた設定や背景美術、ポップで楽しい映像や新鮮なアクションシーンでワクワクさせつつ、緊張感のある宇宙という自然との戦いをエンタメらしく描くことによって私達を楽しませ、宇宙へのワクワクやドキドキを感じさせるのが『地球外少年少女』という作品なのです。
私は現在20代前半で、生まれた頃にはすでに人間にとって宇宙が身近になっていた時代です。義務教育やエンタメ作品で宇宙についての基本的な知識を学びますが、私達のような世代にとって宇宙とは変に現実感だけを抱く「近くて遠い存在」になってしまっています。
本作はこのようなイメージを塗り替えて、「こんなに楽しい世界が待っているんだよ!」と語りかけ、宇宙への期待を持たせてくれるのです。
そしてそれだけではなく、私たちが未来を生き抜く手引きとなり「希望」を与える作品でもあります。