今、宇宙探査が活発化している。月だけでなく火星に対してもさまざまな調査が試みられ、将来人間が住めるような環境が作れないか研究が進んでいる。しかし、地球にも未開の場所はまだ多く残っている。地表の70%を占めている海の底だ。人類が地球から別の惑星に移住しようと考える動機が、温暖化を始めとする環境汚染や人口増加に起因する資源の枯渇だとするなら、そういった問題を解決する鍵は宇宙だけではなく海の底にもあるかもしれない。とはいえ、水中にもいろいろな課題がある。その解決に役立とうとしているのが水中ロボットや水中ドローンだ。
最近テレビで、池の水を全部抜いて何が潜んでいるのかを調査する番組が話題になっている。深さが数10センチから数メートルの池ですら、どのような生物が住み、底になにがあるのか分からない。ましてや、平均の深さが4750m、全体の76%が水深3000mから6000mを占めると言われている海はまさに未知の世界で、どんな課題があるのかさえもまだきちんと把握できていないという。
今分かっているのは、海には膨大な資源が眠っていることだ。水深2000mから6000mの深海底には鉄やマンガンの他、銅、ニッケル、コバルトなどを含むマンガン団塊が分布し、天然ガスが閉じ込められてシャーベット状になっているメタンハイドレートも、日本近海を含む世界中の海底地下に存在する。
日本ではそういった深海の調査に、海洋研究開発機構が所有する有人潜水調査船「しんかい6500」や最大潜航深度7000mまで調査できる無人探査機「かいこう7000Ⅱ」などが使われてきた(写真1)。そうした深い海域の調査には高い水圧がかかるため、このように大がかりで頑丈な調査船や探査機が必要になるが、海域や用途によってはもっと手軽に操作できる水中ロボットでも活躍の場が広がる。
水中ロボットは海洋開発や軍事目的などのニーズから、20世紀後半に誕生した。現在実用化されている水中ロボットは、運用形態の違いによってケーブルと母船が繋がれて情報をやり取りする「遠隔操縦型水中ロボット(ROV)」と、母船などと繋がれることがなく固有の動力源を持って自律的に海中を動き回る「自律型水中ロボット(AUV)」に大別されている。
水中ロボットでは、特にAUVの技術がいろいろと研究されている。自律型のロボットならば、さまざまな障害物に遮られて母船が近づけない場所にも単独で行けて、情報を収集して帰って来れる。例えば、地球全体の環境変動の調査において重要な意味を持つ南極では、船舶や航空機、人工衛星などによる観測では棚氷や海氷の下側はほとんど観測できない。そこで、東京大学 生産技術研究所を中心とした研究グループが開発したのが、南極の海氷や棚氷域を探査するAUV「MONACA」だ(写真2)。
MONACAは全長2.1m、空中重量235 kg、最大潜航深度1500 mで、動作時間は8時間、氷の裏側へ最大10km潜入できるように設計されている。従来のAUVでは、浮上できる場所が限られることなどから氷海域での調査は限られていた。MONACAならば氷の奥深くへ潜入して形状計測を行い、さまざまなセンサーを駆使して氷に対する相対ナビゲーションを実現することで、自分の位置を把握しながら元の場所に帰って来る。また、氷を計測するセンサーユニットを上下反転させることで氷の下の海底の計測にも対応し、複雑な氷の形状に沿って航行できるよう障害物回避やホバリング(その場停止)もできる。
水中ロボットの形状としては、箱形のものや潜水艦のような形のものもあるが、生物の遊泳メカニズムからインスピレーションを得た、魚型の水中ロボット「アクアバイオロボット」の研究も各国で進められている。マサチューセッツ工科大学(MIT)が開発したゴムとプラスチック製の魚型ロボット「SoFi」は、本物の魚のように群れに紛れて魚と一緒に泳ぎ回る(動画1)。
SoFiはシリコンエラストマーを材料とする人工筋肉をモーターで動かし、尾を魚のように左右に動作させることで水中を前進する。尾が生み出す水流のパターンを変化させることで速度を調整し、側面にある2つのフィンで上下の動きを調整している。任天堂のスーパーファミコンのリモコンを防水仕様に改造し、音波を使ってワイヤレス制御する。
外面がすべて柔らかい素材で作られているため、サンゴ礁に近づいても傷つける心配がなく、他の海洋生物に危険を与えることもないという。SoFiを開発したMITの研究者は、「衝突に耐える柔らかなボディを持つことが、衝突を避ける制御に頼るよりも効率的に動ける」と考えている。SoFiの目的の1つは、環境のさまざまな変化によって魚がどのように反応するのかの研究だ。そのため、SoFiにはカメラが搭載されており、次のステップでは魚を自動的に追跡できるような機能を追加する計画だ。