インターネット上で現実に近い体験ができる仮想空間「メタバース」の市場に、日本企業が相次いで本格参入している。1月上旬、米ラスベガスで開かれた家電とデジタル技術の見本市「CES2022」では、パナソニックがメタバース事業への参入を発表した。ソニーグループもメタバース上でファンが交流できるサッカースタジアムを再現するサービスを予定するなど、市場開拓へ向けた動きが加速。日本のものづくりやゲーム産業の知見が生かせる分野として期待が寄せられている。
1月5〜7日にかけて開催されたCESでは、メタバースをよりリアルに体感できる機器やサービスが注目を集めた。日本企業では、パナソニック子会社のシフトールが新製品を展示。仮想現実(VR)を体験できるメガネ型の端末「MeganeX」は重量が約250グラムと一般的なVRゴーグルと比べて軽く、小型化した有機ELパネルを採用し、高精細な映像が楽しめるという。また、今春発売予定の「Pebble Feel」は専用のシャツと組み合わせることで、首元を瞬時に冷やしたり温めたりできる装置。メタバースと連動して暑さや寒さを体感できる。
同社の担当者は「快適にメタバース内に入るために必要なのは軽量・高画質のVRヘッドセット。全身で空間内にダイブするような感覚になれる」とメタバースにおけるVR端末の重要性を強調した。
一方、ソニーグループは英サッカーの強豪クラブ「マンチェスター・シティー」と提携し、実際のスタジアムをメタバース上に再現する計画だ。クラブやファン同士が交流できるサービスの提供を目指しており、CESではプロモーション映像を公開した。また、プレイステーション(PS)用のVR端末次世代機の情報も公開。4K相当の高品質な映像体験ができるという。
国内ですでにメタバース事業に力を入れているのがKDDIだ。2020年5月から東京・渋谷の街をメタバース上で再現した渋谷区公認の「バーチャル渋谷」を公開。これまでハロウィーンのイベントや、サッカー日本代表戦のパブリックビューイングなどをメタバース上で実施して、延べ100万人を集めた。今春には実在の都市と仮想空間を連動させた街づくり事業を本格的に始動する。
また、キヤノンやソフトバンク、NTTドコモなども人物の見た目や動きなどを3Dデータ化する専用スタジオの充実を図る。通常なら膨大なコストと手間がかかる3D映像が短時間で制作できるため、メタバースをよりリアルに近づけることが可能になる。
大和証券のシニアストラテジスト、金丸裕美氏は「VR端末や第5世代(5G)移動通信システムなどのインフラが整ってきたことに加え、コロナの影響でメタバース市場の拡大は加速している」と指摘。米調査会社エマージェンリサーチの分析によると、20年に476.9億ドル(約5兆4000億円)だった世界のメタバース市場規模は、28年には8289.5億ドル(約94兆8000億円)にまで拡大すると予想されている。「日本が持つゲームコンテンツなどの強みをうまくメタバースのビジネスとして展開できるかが今後のカギとなる」と話した。(桑島浩任)
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