三芳町社協で提供している「あったか食事パック」。持っているのは、特例貸付を担当する小林友さん(同社協提供)
これまでの連載では1.2兆円規模までコロナ禍の特例貸付について、審査らしい審査がないまま貸し付けられたこと(「生活保護費に迫る コロナ禍「特例貸付」1.2兆円の衝撃」)、にもかかわらず、社会福祉協議会(社協)によってスタンスが異なり、地域によっては弱い立場の人たちが排除されたこと(「コロナ禍で助けを求めた特例貸付から排除される人たち」)をお伝えしてきた。この間、暗い気持ちで政策動向の観察や現場の取材を続けてきたが、その中で、「特例貸付は厚労省の英断である」と言い切る社協職員に出会った。 名前を古賀和美さん(58歳)という。特例貸付のレポートとして最終回となる今回は、彼女が所属する三芳町社会福祉協議会(社協)の取り組みを紹介していきたい。インタビューに応じてくれたのは、古賀さんと三芳町社協で特例貸付を担当する小林友さん(30歳)である。 三芳町は、埼玉県の南部に位置する人口約3万8000人の小さな自治体である。県内では最も東京都に近い町であり、首都圏のベットタウンとして発展する一方で、サツマイモなど農業も盛んで、武蔵野の自然も残っている。全国広報コンクールで日本一の内閣総理大臣賞を受賞し、『コロナ時代の移住先ランキング』(AERA)で4位を取るなど、関係者には名の通った自治体である。とはいえ、前置きはこのくらいでいいだろう。 まずは、1枚の写真を見てほしい。被写体となっているのは小林さんである。この写真には、特例貸付に足りなかったものが映っている。 写真に込められたメッセージを理解すると、特例貸付のイメージががらりと変わる。今回の記事では、そんな趣向を凝らしている。推理小説を読むつもりで、この謎かけを楽しんでほしい。
写真は、2021年2月に発行された『みよし社協だより』の表紙に使われた。1月に2回目の緊急事態宣言が発令され、第3波がピークを迎えた時期に重なる。表紙には、次のメッセージが添えられている。食べるものがない方・住む場所がない方・なくなりそうな方は社協までご相談ください。必ず力になります。「あったか食事パック」提供中。 あったか食事パックとは、社協を訪れた相談者に1週間分の食料を提供するものである。小林さんが持っているのが、実際に提供された食料品である。三芳町社協は他の社協と異なり、特例貸付を原則として対面での申請とした。必要な支援策を提案するためには、郵送でのやり取りでは十分ではないと考えたのである。そして、特例貸付の相談に訪れた人には、あったか食事パックを手渡した。 驚くべきことに、あったか食事パックに回数制限はない。食事にも事欠く家庭があれば、1度ではなく、2度、3度と提供することもある。なかには、週に1度、あったか食事パックを渡している例もあるという。提供回数の基準はどのように決めているのかという質問に対して、古賀さんは、「よくある質問です」と前置きをしたうえで、こう語った。 「誰に、何回、提供するのかは、現場の判断に任されています。私たちが一人ひとりの生活状況を聞き取ったうえで、必要な人に、必要なだけ支援する。社協の上層部も理解し、応援してくれています」 それだけではない。特例貸付は申請から結果がでるまでに、どうしても一定の期間がかかる。それまでの間の当座の生活費として、初回相談時に食料品とは別に5000円を手渡している。「相談に来てくれてありがとう」という感謝の気持ちを伝えたいからだという。 相談者のなかには、「こんなに優しくしてもらえたことはない」と涙する人、あまりに申し訳ないと貸付の相談に来たのに寄付を申し出た人もいた(寄付については丁重にお断りしたという)。 これらの支援は、三芳町社協が独自に創設した新型コロナウイルス対策緊急支援募金を財源としている。すべて寄付で集めたもので、取材時点では430万円ほどの寄付金が集まっていた。なぜ、小さな町社協がこれほどの寄付を集められたのか。その訳は後述することとし、まずはどのような人が相談に来たのかをみていこう。