新型コロナウイルスによるパンデミックの前から、私はZoomミーティングに慣れ親しんでいた。前の会社では完全にリモート勤務をしていたので、2020年3月に現在の仕事がリモート化されたとき、私はすでに自分の映る小さな四角が最高に美しく見えるように、パソコンのカメラの角度を調整し、部屋の照明をすべてつける術を知っていたのだ。
しかし、このZoomが仕事の会議だけでなく、ハッピーアワーの飲み会から感謝祭のディナー、さらには愛する人の葬儀への参加方法となるにつれ、自分の顔を見つめることで生まれる嫌な気持ちを無視できなくなった。
自分の見た目を意識したときから、私は自分の身体との付き合い方に問題を抱えてきた。子供の頃には、毎日机の下で手首の太さを確認し、昨日より太くなってはいないと自分に言い聞かせていた。大学時代には、“欠点しかない”自分の身体を、隅々まで何時間もかけて観察したあげく、嫌になって鏡を壁に向かって裏返しにしたものだ。
何年もセラピーを受けて、そういったことはなくなっていた。しかし、Zoomで1日何時間も自分の顔を見つめることで、また、悪魔のようなささやきが頭の中で聞こえるようになった。気がつくと、土曜の夜のハッピーアワーでジョークを聞き逃したり、月曜の朝のチームミーティングで重要な情報を聞き逃したりするようになっていた。何かを変えなければならないと思ったのだ。
多くの人が、対面での仕事や社会生活に戻りつつあるものの、完全にZoomのない世界に戻ることはないだろうというのが正直な予想である。多くの企業がビデオ会議の便利さを知った。ハンディキャップや疾患のある人にとっても、Zoomは仕事や社会生活をより充実させるものであるはずだ。Zoom画面との向き合い方を学ぶことは、一時的に必要な対応ではなく、ニューノーマルにとって不可欠なことなのだ。
マスカラをしていない自分の顔を見られるようになるまでに、長い時間がかかった。その過程での重要なステップのひとつは、ビデオ会議ツールがどのように私たちの見た目に影響を与えうるかを学び、それを避けるのではなく、どのように適応したらいいかを学ぶことであった。
miniseriesGetty Images「Zoom障害」とは、ビデオ通話をする際に、自分の顔がどのように見えているのか、極度の不安を感じる現象のこと。ビデオ通話中の自分の外見を気にしすぎるあまり、不安を感じたり、気が散ったり、参加すらためらうことを指す。
私のように、ビデオ会議に参加することに苦痛を感じ、見た目を整えるために非常に多くの時間を費やし、通話中は画面上に映る自分の外見に気を取られ、それが普通だと思っていたら、Zoom障害かもしれない。
この用語は、2021年1月、マス・ジェネラル病院皮膚科の医学博士であり、公衆衛生学修士(MPH)のシャディ・クローシュ氏が、研究チームとともに行った調査から生まれたもの。
134人の皮膚科医を対象としたこの調査では、56.7%が、パンデミックの間に美容に関する相談が増加したと回答。なんと症例の86%で、 美容サービスを受ける理由にビデオ会議が挙がったという。さらに、回答した皮膚科医の82.7%が、ビデオ会議の利用が増えたことで、患者が自分の外見に不満を持つようになったと回答した。
また、アメリカ最大規模の医療専門家ネットワークであるアドバンスド・ダーマトロジーが行った別の調査では、対象となった1,450人のうち85%が、ビデオ通話で自分の顔を見ることで、自分の外見についてより自意識が高まったと回答。78%が、ビデオ会議中に自分の顔と同僚の顔を比較したと回答した。
多くの人が対面での仕事や人付き合いに戻っても、この問題はいまだに存在する。コロナ太りに悩まされたり、何カ月も避けてきた人との上辺の会話に緊張感を覚えている人もいるかもしれないが、その不安は反芻する時間が長くなるほど強まっている可能性さえある。
2021年の夏にクローシュ氏が行った追跡調査では、7,000人以上の参加者のうち70%が、対面式の生活や仕事に戻ることについて何らかの不安を感じていることが判明。
「大きな理由の1つは、人々が自分の見た目に自意識を持っていること。さらに、ビデオ会議やSNSに多くの時間を費やしている人たちの間で、より高いレベルの不安がみられました」
クローシュ氏らは、Zoom障害を引き起こす原因として、2つの要因を指摘した。一つは、それまで自分の外見を見つめる時間が少なかった人が、突然毎日何時間も外見と向き合うようになったこと。そしてもう一つは、フロントカメラが実際に私たちのイメージを歪めていることである。
正面から、しかも近い距離で映すので、パソコンのカメラは、私たちの顔を平らに、鼻を大きく、目を小さく見せるのだとクローシュ氏説明する。また、多くの人が目を細めて画面の文字を読むことがあるうえ、カメラ位置が顔より下のアングルになることが多いため、あごのラインがたるんで見えたり、二重あごに見えたりするそう。つまり、私たちがまだ心理的に自分の姿を歪めていなかったとしても、カメラが物理的にそれをやってくれているのだ。
また、心理学的な観点からも、会議中に自分の姿を見ることは、普段は外見にこだわらない人にとっても、独特の不安感を与えることがある。オハイオ州立大学ウェクスナー・メディカル・センターの心理学者であるジェニファー・カーター博士は、次のように説明する。
「相手が顔の前に鏡を持っている状態で会話をしているようなものです。相手の話を聞き、それに対応しながら、自分の見た目をチェックすることは、脳にとってもキャパオーバーなことだといえます」
Westend61Getty ImagesZoom障害は、身体醜形障害との類似性はあるものの、診断可能な精神疾患というよりは、その状態を説明したものに近いそう。「身体醜形障害の人は、何度も何度も鏡をチェックする傾向がある」と話すのは、マサチューセッツ総合病院の身体醜形障害の専門家、ヒラリー・ワインガーデン博士。
「一日中何かを見つめているという行動は、身体醜形障害以外でも起こりうることです。それにより、他人はもっと多角的な視点で私たちの画面に映る顔を見ているのに対し、私たちを、自分の顔の“欠点”など、特定の部分に集中させることにつながる可能性があります」
また、Zoom障害は、SNS上で加工された自分の姿と、本来の容姿のギャップに苦しむ「スナップチャット症候群」とも異なる。スナップチャット症候群になると、加工された画像にいかに近づくかに固執し、加工なしでは実現し得ないような外見を手に入れるために、美容整形に手を出すことさえあるとされる。
しかし、Zoomのユニークな点は、自分でも気づかないうちに自分のイメージを歪めてしまい、他人と一緒に自分を見なければならなくなる点である。「Zoomは、自分の顔と他人の顔が隣り合わせになっているので、比較するのに最適な方法となってしまっている」とワインガーデン氏。
「リモートライフやリモートワークは、すぐにはなくならないかもしれない」とクローシュ氏は指摘する。
「テクノロジーとどのように関わるのが最も健康的な方法なのか、そのバランスを見つけるための現実的な解決策に取り組みたいと考えています」
Zoom障害によって仕事や社会生活に支障をきたしていると感じたら、私のようにセラピーに通っても良いし、もしくは、専門家に聞いたいくつかのテクニックを試してみることをおすすめする。
最後にカーター氏がおすすめするのは、自分の顔を映す画面が邪魔な場合は、Zoomの設定を調整し、最小化すること。
他にも、自分自身を映さなくてすむように、会議の参加者全員のカメラをオフにすることを提案してみたり、ビデオ通話を電話チャットに変更することなども。これらの方法は、心の苦悩を根本から解決するものではないものの、少なくともその場では役に立つはず。
また、あなたが「Zoom疲れ」を感じているのであれば、他の人たちもおそらくそうであることも忘れないでほしい。ビデオ会議は今後も続くことが予想されるので、お互いに優しさを持って適応していくのが良いのではないかと思う。
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