まずは、ポリゴン・ピクチュアズがどんな会社なのかをおさらいしておこう。同社は主に3DCGをベースとした作品を制作している。1983年に創業、CG黎明期には、CMをはじめとした作品を多く制作していた。日本の3DCG制作では、老舗中の老舗である。塩田氏は三代目の社長にあたり、現在のCGアニメーション作品を主軸としたビジネスは、塩田氏の代になって本格化したものだ。
現在、同社の代表的な作品といえば、いわゆるセルルックな表現によるCGアニメーションのテレビシリーズだ。「シドニアの騎士」、「亜人」、「山賊の娘ローニャ」などで知られている。そして、特に2015年のNetflix日本参入以降は、同サービスといち早くコンテンツ供給契約を結び、Netflix独占の形で「シドニアの騎士」「亜人」を世界配信したことで注目された。
シドニアの騎士(c)弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局2017年に劇場公開を予定している「BLAME!」も、Netflixで世界配信が予定されている。加えて、2017年にはゴジラのアニメ映画化も手がけることが発表されている。
GODZILLA(c)2017 TOHO CO.,LTD.Netflixとのビジネスが始まった背景を、塩田社長は「長年北米で活動してきたことが背景として存在する」と話す。
塩田社長(以下敬称略):弊社は長年、北米で、ハズブロやディズニー、ルーカスフィルムとともに多くの番組を制作しています。それを通じて、北米でのアニメの位置付けは身をもって知っています。要は、北米でのライツの活用については、いわゆる「普通のやり方」をしていても見合う結果は得られないだろう、と思ったんです。
普通のやり方というのは、作品の配信権を「アグリゲーター」に預けて、ミニマム・ギャランティ(最低保障使用料)を切ってもらって利用料をいただく、というやり方ですが、それではつまらない。最近は金額が上がってきましたが、2013年当時では大した金額にならないのは目に見えていたんです。「シドニアの騎士」をプロデュースする段階(筆者注:「シドニアの騎士」第一シーズンは、2014年4月から6月にMBS系列で放送。翌7月からNetflixで世界配信された)で、先んじて直接自社でアプローチをしていこう、ということを大方針として定めました。
ポリゴン・ピクチュアズは、日本市場向けのアニメだけでなく、北米市場向けのアニメも多数制作している。「スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ」や「トランスフォーマー プライム」、「トロン:ライジング」などの作品群だ。これらは北米で多数の賞も受賞している。だが、その結果見えてきたのが、北米における「日本的アニメ市場の厳しさ」だ。
塩田:なぜなら、我々が作るような作品は、通常のチャンネルでは放送するスロットがありません。Blu-ray・DVDにするにしろ、さほどいい条件は出ないでしょう。
その中で、弊社の海外ビジネスプロデュース担当が、SVODでの配信を考えました。そこから、人づてに紹介してもらう形で、たまたまNetflixにたどり着いたんです。
窓口になった、Netflixのエリック・バーマック(筆者注:Netflix・インディペンデントコンテンツ部門部長)は、アグレッシブな人物です。彼は「トロン:ライジング」などを通じ、我々の仕事をよく知っていました。そこで「シドニアの騎士」を紹介したところ、非常に面白そうだ、という反応を得ました。
我々が最初にNetflixに話を持ち込んだこと、北米での活動歴をご存知であったことがきっかけではないでしょうか。あとは、我々の振る舞いが通常の日本のアニメ会社とは異なり、アメリカナイズされていたことも大きかったのかもしれません。
Netflixのオリジナル作品というと、Netflixが制作費の大半を出資し、他のルートよりも先に、まずNetflixで配信される作品のイメージが強い。「House of Cards」や「火花」がその典型だ。だが実際には、Netflixとの配信に関しては、「放送など他の経路はともかく、配信についてはNetflix独占で」という形での契約も少なくない。ポリゴン・ピクチュアズが「シドニアの騎士」「亜人」「BLAME!」で採ったのは後者のやり方である。
塩田:「シドニアの騎士」は、通常の「製作委員会」方式です。講談社さんとのつながりの中で、彼らが権利を保有する作品の中で、CGアニメーションにして、予算的にもはまるし作品の魅力的にも適切であろう、ということで選んだものです。ですから基本的には「日本で流行るであろう」という目線で選ばれている案件です。しかし、結果的に言えば、「シドニアの騎士」は北米でも「売りやすい」作品であったのは事実です。この世界観は「アニメ版の『バトルスター・ギャラクティカ』です」という感じで、とても説明しやすかったのです。「アニメイズム」(MBS系列 深夜アニメ放送枠)に流れうるものではあるけれど、ハードコアなSFである背景が北米市場でもヒットしやすいものでした。
では、Netflixはポリゴン・ピクチュアズからの申し出をどう見ていたのだろうか? 塩田社長は「私見であり、本当にどうかはわかりませんが」と言い添えた上で、次のように説明する。
塩田:当時、彼らはアニメのマーケットはまだよくご存知ではなかったようです。日本のアニメについてはノーインフォメーションの状態で、「色々アニメもある中でどのジャンルが」といったレベルで戦略を詰めきった状態とは思えませんでした。
しかし、これから世界展開することは決まっていましたし、アニメがキーになる、ということも分かっておられたのでしょう。そこで、組むパートナーとしてのポリゴン・ピクチュアズとは「意思疎通ができる」と思っていただけたのかな、とは思います。
ものづくりひとつにしても、日本には日本ならではの「ドキドキハラハラ」な環境があります。我々はそういう体制では作っていません。制作体制にしても、見積もりひとつにしても、かなり透明度が高いので、彼らが不安に思う要素が少なかったのではないでしょうか。
すでに述べたように、ポリゴン・ピクチュアズは北米市場向けの作品を多く手がけてきた。アメリカの映像業界の商慣習もよく知っている。スケジュールや予算規模を超えてギリギリまで作り込み、時には破綻することすらあるような体制を良しとせず、計画的な制作体制を重視する。そうした姿勢がNetflixからは分かりやすかったのではないか……というのが、塩田社長の予測だ。