プロトタイプの外観
公立はこだて未来大学デザイン知能研究室の増井元康氏、竹川佳成氏、新田野乃華氏、平田圭二氏、香港城市大学の徳田雄嵩氏、慶應義塾大学lifestyle Computing Labの杉浦裕太氏、NTTコミュニケーション科学基礎研究所柏野多様脳特別研究室の正井克俊氏による研究チームが開発した「PerformEyebrow:装着者の感情表現を拡張できる人工眉毛形状制御デバイス」は、人工眉毛の形状が多様に変化することで表情を拡張する眼鏡型ウェアラブルデバイスだ。【画像】システムの構成図 人によっては無表情であっても怒っていると誤解されたり、うれしくても表情豊かに変えられなかったり、うまく相手に感情を伝えられない場合がある。表情をうまく形成できない人のために研究チームは、多様な眉毛形状を提示して表情の変化を支援できる表情拡張システムを提案する。 提案システムは、眼鏡をベースに、サーモクロミックインクで描かれた人工眉毛と、導電性インクで印刷した下地の電熱線などで構成する。眼鏡上部に、土台や電熱回路、 サーモクロミックインクで描いた人工眉毛の順で重ねて実装した。 眉毛の形状が変化する際は、電熱線に電圧を印加し、サーモクロミックインクの色を選択的に消すことで眉毛の形状を制御する。1本の眉毛を上下に動かしてさまざまな表情を再現するのではなく、上向き、下向きにカーブした眉毛を重ねたエックス型眉毛をあらかじめ用意しておいて、適宜不要な箇所を見えなくすることで眉毛が変化する。 この手法を駆使すると、7種類の表情を再現できる。7種類の眉毛の形状変化によって、見る者に与える印象を評価するための実験と、マスク着用バージョン(マスクのイラストを顔画像に重ねた図を使用)も合わせて行った。その際、顔を全て統一するため、着用者の顔は静止画像を使った。 被験者には、各表情に対して、Anger(怒り)、Sadness(悲しみ)、Fear(恐怖)、Disgust(嫌悪)、Surprise(驚き)、Happy(幸せ)、Contempt(軽蔑)の7種の感情によってそれぞれ5段階のリッカート尺度を回答してもらった。 実験の結果、マスクなしで悲しみや怒りといった感情を表出できると分かった。マスクを着用していない場合よりもマスクを装着した場合の方が、どの表情においても感情が強く出る結果となった。 今後は、静止画像ではなくその場で眉毛が変化する動的バージョンと、本物のマスクを使用したバージョンの評価実験をしたいという。今回は眼鏡に搭載する人工眉毛としたが、眼鏡を取っ払い眉毛を覆い隠すシリコンベースの薄型人工眉毛として、より顔に調和したデバイスになるように機能を改修したいという。出典および画像クレジット: 増井 元康, 竹川 佳成, 新田 野乃華, 徳田 雄嵩, 杉浦 裕太, 正井 克俊, 平田 圭二. PerformEyebrow:装着者の感情表現を拡張できる人工眉毛形状制御デバイス. 情報処理学会論文誌. 2021, vol. 62, no.11,p.1817-1828. ※テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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