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盗聴は、他人の会話や電話内容を当事者の同意なしに盗み聞きする行為である。先進国ではプライバシー保護の観点から盗聴行為は徹底的に禁止されているが、北朝鮮は世界有数の“盗聴大国”である。北朝鮮のホテルの盗聴はどれほどのレベルなのだろうか。
(過去分は以下をご覧ください)◎「北朝鮮25時」(https://jbpress.ismedia.jp/search?fulltext=%E9%83%AD+%E6%96%87%E5%AE%8C%EF%BC%9A)
(郭 文完:大韓フィルム映画製作社代表)
現在、北朝鮮のホテルでは100%、盗聴が行われている。ロビーからコーヒーショップ、レストラン、バー、サウナ、売店、エレベーター、マッサージ室、美容室、廊下、客室に至るまで、ホテル内はすべてが盗聴区域だ。
ホテルの外も盗聴されている。訪朝する外国人はホテル内に盗聴器があることを知っているので、秘密の会話はホテルの外でタバコを吸ったり、散歩したりしながら行うが、ホテルの外には集音能力に優れた海外製の指向性マイクが設置されているため、会話はすべて筒抜けである。
中には強者もいて、客室内のシャワールームで、シャワーを流しながら秘密の会話をする人々もいるが、北朝鮮の盗聴システムはノイズを除去して会話内容を抽出する能力が備わっており、しっかり会話を聞いている。
北朝鮮における盗聴は国家保衛省盗聴局の管轄だ。24時間3交代で耳にイヤホンやヘッドホンをはめて盗聴していることから、国家保衛省内部では「耳垢(耳に対する卑俗語)局」と呼ばれている。
国家保衛省盗聴局には、国内機関を盗聴する部署と訪朝外国人を盗聴する部署があり、ホテルの盗聴は外国人を盗聴する部署が担当する。
この部署には各国語の専門家たちが所属しており、同時通訳が可能な水準の語学力を持つ、北朝鮮最高レベルの外国語の専門家らが盗聴内容を通訳、翻訳している。
国家保衛省盗聴局によるホテルの盗聴システムは歴史が長く、その分、システムも他の国内機関と比べて充実している。平壌の高麗ホテル、羊角島国際ホテル、安山ホテル、平壌ホテル、海坊主ホテル、青年ホテル、大同江ホテル、普通江ホテル、瑞山ホテルなど、外国人専用ホテルの地下には盗聴と通信傍受のための専用の機械室がある。盗聴区域内で盗聴・傍受した声は機械室で増幅され、国家保衛省盗聴局に送られていく。
つまり、盗聴はホテルの地下ではなく、国家保衛省盗聴局の当該部署で行われているということだ。
高麗ホテルを利用したある外国人が、ホテルのバーで酒を飲みながら、「酔っ払いの話」と断った上で北朝鮮を誹謗中傷したところ、盗聴されて入国拒否の対象になった。
また、平壌で開催されるサッカーの試合に出場するために訪朝した韓国女子サッカー選手が、高麗ホテルで「どうしてホテルにタオルが一枚もないの」とつぶやいたところ、ホテルの従業員がタオルを持ってきたという話もある。
実は、部屋にタオルはあったが、盗聴器が本当にあるのだろうかという興味から文句を口にしたという。選手は「珍しい風景で完全に唖然とした」とインターネットに書き込んだ。
国家保衛省盗聴局の職員が、盗聴した不平を電話でホテルに知らせたのだろう。
高麗ホテルの盗聴に関するエピソードはこれだけではない。
対北朝鮮支援のため、平壌を訪れた韓国NGO団体の幹部が「平壌の夜は孤独で寂しい」と話した数日後、フロントから「ルームサービスを入れましょうか」という電話が部屋にかかってきた。ここでいうルームサービスとは、いわゆる夜の接待である。
北朝鮮を訪問する日本人は、高麗ホテルより、川沿いの安山ホテルを利用する人が多いと聞くが、その安山ホテルの近くに「安山館」というレストラン兼遊興施設がある。
ここではタイをはじめ東南アジアの女性がマッサージと売春に従事しているが、ホテルを利用した外国人の「平壌の夜」に対する不平を盗聴した職員の報告を受けた上層部が、外国人専用の遊興施設を作ったという噂だ。
このように、北朝鮮のホテルの盗聴に関するエピソードは枚挙に暇がない。それだけ、ホテルの盗聴が完璧だということだろう。
それでは、ホテルのどこに盗聴器が隠されているだろうか。ホテルスタッフの中でそれを知っているのは、電気管理を担当する技術者だけだ。盗聴器はソケットやスイッチ、テレビ、スタンドなどに設置されるので、電気技術者の協力なくして管理は難しい。
ホテルで働く電気工事技術者は、国家保衛省盗聴局に対して定期的に「秘密厳守誓約書」を出している。支配人や党秘書などホテル幹部に盗聴器の有無を尋ねられても秘密を守る誓約書だ。
かつて平壌ホテルの党秘書が長期間、女性従業員と不適切な関係を持ったことがある。その際に、党秘書はホテルの洗濯室を利用していた。情事の場所が洗濯室だったのは、ホテルの中で盗聴器が仕掛けられていないところが洗濯室以外にないと電気工事技術者が打ち明けたからだ。党書記はホテルスタッフの解任権を持つため、その技術者も口を滑らせたのだろう。
ちなみに、党秘書が「私の部屋にも設置されているのか」と尋ねると、電気工事技術者は「そうだ」と答えた。
その後、情事が明るみに出ると、党秘書はもちろん、技術者も罷免になった。北朝鮮の盗聴制度は秘密厳守が絶対で、違反すると厳しい処罰を受ける。
北朝鮮のホテルで行われる盗聴は、外国人の不満やスパイ活動をチェックするだけではない。外国人利用者の話から、当該国家の政治や主要人物に関する情報も収集する。
日本に関していえば、次のような出来事があった。
日本から訪朝した人が、在日本朝鮮人総連合会の案哲氏(アン・チョル)に関する会話をした。朝鮮総連の案哲氏が北朝鮮の医療用装備の製造工場に投資した時、建設費用を水増しして北朝鮮側に提示した。その際に、案哲氏は投資した医療設備が3000万ドルだと北朝鮮に提示したが、実際は1000万ドル以下だった。案哲氏は多くの恩恵を北朝鮮政府から受けていたが、会話を盗聴した北朝鮮政府は案哲氏に対する恩恵を取り消した。
盗聴によって録音された内容は物的証拠になるため、摘発されると避けることはできないと北朝鮮の関係者は語る。反面、ホテルの盗聴システムを知っている韓国の情報関係要員が虚偽の情報を盗聴させ、北朝鮮政府に百人余りを「処理」させたこともある。
北朝鮮の盗聴は、現在進行形だ。訪朝する外国人が、ホテルで盗聴被害を受けることがないよう望みたい。
筆者:郭 文完