化学品メーカーの第一工業製薬と、少量データによる人工知能(AI)ソフトウェア開発会社HACARUS(ハカルス)は、「カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)」の製造工程における途中経過の判定に、近赤外線カメラなどのセンサーによる撮影とAIを組み合わせ、従来の検査速度を約6倍にする検査技術を開発した。
これまでは検査員の経験に基づいていた判定を自動化することで、品質の高さや供給体制の安定化を実現し、検査員の負荷軽減と熟練技能の継承につなげることができる。
セルロースを原料にしたCMCは、リチウムイオン電池から高級養殖魚の餌まで幅広い用途で活用されている。製造工程では、水分含有量の調整が不可欠で、適切な配分が決まっている。水分含有量の測定は、可視光による画像検査では難しく、従来は溶剤を用いた容積測定や、育成に5年以上かかるベテラン検査員らによる製品表面の目視検査、手で握った際の感触などで判定していた。
今回開発した技術は、近赤外線カメラといった最新のセンサーと、撮影した画像を分析するAIを組み合わせて測定するもの。HACARUSの協力で、少量のデータでAIを構築し、外観測定技術の課題解決を実現した。CMCにカメラを当てた際に赤外線の吸収や反射の度合いが異なるため、適切な水分量の正常品に対して、水分過多であれば撮った画像が黒くなりすぎたり、水分不足であれば白くなりすぎたりする。またこの技術は、水分量の適切な状態やピーク値をグラフ化し、数値で表現できる。
2021年11月から試験運用を開始しており、測定装置を導入したその日からベテラン検査員と同等の判定が可能になった。判定結果は客観的な数値として示されるため、共通の判断基準の構築によって、検査員ごとのばらつきを低減し、工程の標準化や供給量の安定化につながっている。また、一部製品は今まで測定値指標も手触り判定も不完全であり、トラブル停止の要因となっていたが今回の導入でトラブルをゼロにできたという。
開発した技術によって熟練技能を可視化でき、継承が容易になったため、工程安定による製造量増加や、工場、製造ラインの拡張も見込める。
また自動化によって、1回の測定検査にかかる作業時間は、30分程度だったのが、5分程度と約84%削減できるケースが見られた。こうした効果により、第一工業製薬では、人件費をはじめ、検査や検査員育成のコストが今後2〜3年で50%程度削減できると見込んでいる。