僕が綿ゴミ(英名ダストバニー)に遭遇したのは2003年、交換前のビデオカードの下にうずくまってるのを見たのが最初です。
以来ずっとアイツは周辺機器・アパート至る所に守護神のごとく鎮座しています。故障したRadeonと一緒に捨て、パソコンのケースをこまめに掃除するよう心を入れ替えたのに、ゲーム専用PCの左奥の隅から、大学寮の部屋の隅にいき、TVの影に潜伏。最初のアパートに越してからも、いっそう図太く薄気味悪いアイツがいて、トイレのドアの脇で2度捕獲。一時はこんな掃除当番が厳しいんじゃ堪らんわい、とばかりにアイツは姿を暗ましました。が、ベッドの脚・クローゼットの隅・家電のそばで相変わらず簡単に見つかります。
先月も廊下のど真ん中で木の継ぎ目の埃にじっとかがんでいるのを見つけました。寝室から来たものやら、冷蔵庫の下から来たものやら、寝室から回転草みたいにゴロゴロ転げてきたものやら...経路はよくわかりませんが、ま、ともあれ、アイツは帰ってきました。前と変わらぬ気持ち悪さで。
初めて遭遇してから10年近くが経とうとしてるのに僕はと言えば、未だに綿ゴミがどこから湧いて来て、どうあのかたちになったのかさえ知らないんですよね...。
ダストバニーのことはひとまず置いといて、ゴミのことから考えてみましょう。
ダスト(ちり)は至るところにあります。細かい砂は石のダスト。ゴム、ブレーキパッド、舗装道の粒子は道のダスト。細かい灰は火山のダスト。かのカール・サガンは宇宙から見たら地球は「小さなちり」のようなものだと繰り返し言いましたけど、まったくもって至言です。いや、今ここで話題にしている綿ゴミのチリは比喩とかじゃなく、もっと具体的なレシピがある身近なものですけどね。
それについては実はだいぶ解明も済んでいます。
「汚染された土壌・空中粒子が屋内ダストになるまで(Migration of Contaminated Soil and Airborne Particulates to Indoor Dust)」という論文を共同執筆したDavid W. Layton氏とPaloma I. Beamer氏によりますと、中西部の一般家庭にあるダストには普通、以下のようなものが含まれているそうですよ。
屋内のダストは、住居に運び込まれる土、屋外の空中の粒子、各種ソースから入ってくる有機物(これが重要)から成る。屋内のダストで重要なのはその有機含有物であり、これが住居では全体の約40 wt %(重量比)を占める。
土、花粉、空中のほこりの粒子は予想圏内ですよね。それでちりの重量の半分以上を占めるというのもナルホドです。外は土埃だらけだし、家に帰るたびそれが体にくっついてくるんでしょう。でも残りの40%―Layton博士とBeamer博士が言うところの「有機物」―とは一体なんなんでしょうね?
糸くず、皮膚のふけ、有機ファイバー、食べかす、etc.
そうか...綿ゴミの残り40%は自分。自分の皮、髪の毛、服の糸くず。犬持ってる人は犬だけど! 大体のところは「自分」がゴミの出元だったのですね、ははは。
もっと詳しく見ると、もっと気持ち悪いことがイロイロ分かってきます。1986年のDiscover誌の特集記事(Straight Dopeに転載記事あり)でPenny Moser女史は、自宅のちりをいくつか抽出してラボに持っていき、顕微鏡で覗いてみたのです。すると...
病理学者Charles McLeod氏は、私の綿ゴミを嵌(は)めたスライドに目を移し、「虫の体の一部が写ってますね」と言った。「キチン質の殻か、体部の欠片でしょう。人間の髪の毛も写ってますね」。それは自分の髪だった。定期的にヘナ染料で洗うので見ればひと目で分かる。顕微鏡の中の髪の毛はねずみ色の茶にレイジング・ラズベリーやらオータム・コッパーのカラーがバッチリ出ていた。
アルテルナリア属のカビ胞子もあったが、こちらは分断化したさつまいもみたい。回虫の卵もある。あんまそれ以上深くは知りたくないような代物だ。
他のスライドも全部そうだが、このスライドにも青とピンクの小さな繊維が沢山写っていた。「これは自然のファイバーですよ」とMcLeod氏。「この平らで、不規則な形を見れば分かります。隣家のラジエーターのダストの中からは合成繊維の青いファイバーが見つかっています。おそらく青のパンティストッキングみたいなものから来たものじゃないかな」
そのラジエーターのダストには鶏の脚みたいなゾッとするものも写っていたが、それは単に葉っぱの根本にある髪の毛の小さな塊だった。ガスレンジの下にはホウ酸の結晶-- ゴキブリ予防薬 -- とイースト菌、あとは猫の毛、花粉、ピンクと青のファイバーもあった。
ぐお~、虫の体部、髪の毛、カビ、回虫の卵、正体不明のファイバー、パンストの繊維、葉っぱの毛、イースト菌、ゴキ駆除剤...これでもまだ心配ないって方はこの下を読んでください。サンプルからはこんなものまで見つかったのですよ。
足の爪の欠片はあんま気にならなかったし、カビの胞子も我慢できる。だが -- このロブスターみたいなギザギザ毛の生えたの、これは、嫌。「ああ、なんかの手足が切断されたものですね」とMcLeod氏は平然と言ってのけ、1分もかからないうちに全身像なるものを見つけた。「こういうものは僕も見たことないなあ」、「脚に口とエラみたいなパーツがあるみたいですね」私もさすがにこんな気持ち悪いもの見たことない。それはまるで甲殻類の付属器官をつけた、怒れるサイのようだった。
これは結局、イエダニでした。ものすごく一般的なダニで、肉眼では見えないけど、ほとんどの家庭に生息し、僕らの肌から絶えず落ちる皮膚をパクパク食べて生きている虫です。ああ...。
でも綿ゴミの中身って、みんな死んだ組織ですよね? 虫の死骸も抜け毛も皮膚の破片も、みんな死んでます。死んだダストには意志も意図もないはず。なのになんで意志を持つ生き物みたいにこうも固まるんでしょう?
ダストは単なるダスト。小さな粒子が固まる理由は実のところよくわかっていません。小片・粒・粉がみなおしなべて隅や縁に固まってクラスタを形成し、屋外より屋内の生活を好むという共通の行動パターンをとるのは、もっと意味不明ですよね。
でも単純だからって誤魔化されちゃいけませんよ。綿ゴミはシステムなんです。そしてシステムたるもの、ちゃんとどこかから何らかのメカニズムを介して顕現してくるものなのですから。
そのメカニズムは複数あります。ダストが綿ゴミになるプロセスは、ダストが最も得意とする行動―つまりどこかに落ち着く、というところから始まります。が、ダストと一口に言っても中身はいろいろですから、落ち着き方もマチマチなのです。
毛髪、大きな皮膚片、目に見える土は予想範囲...例えば通風口の空気(塵は排出口そばに渦巻状に落ち着いたりする)や、僕の動き方(ドアに掃かれてドアの影に埃がたまるのは、このせい)で落ち着き場所が決まります。小さな粒子は長時間空中に漂う傾向があり、ミクロン(1mの100万分の1)未満の塵は1時間に30cmという超スローペースで落下するのです。
こうした小さ目の粒子は、人が気づかない超微妙な空気の流れで意外な場所に落ち着いたりします。 家の中の空気は止まって見えますけど、意外と絶えず動いてるものなんですね。あなたの呼吸、家電から出る排気、暖房・冷房などが流れの元。その方向やパターンは滅多に観察する機会もないものですが、綿ゴミの形成にはこれが一役買っています。
しかし、空気の流れや通路で綿ゴミがどこにできるかは分かるけど、綿ゴミがなぜ形成されるかまでは分かりませんよね。そちらの問いに答えるには、宇宙論を紐解かねばなりません。
この銀河系などの形成に関する人気の理論に、「銀河の初期の姿は単なる...塊であった」というものがあります。Richard Cowen氏は自著「History of Life」でこう述べています。
ダストの粒子はやんわり衝突すると、静電気と重力の引き合う力でくっつき合う傾向にある。このプロセスは降着(accretion)と呼ばれる。
新星の周りではこのダストバニー(綿ゴミ)が大きくなり、直径1m前後の固体塊にまとまる。コンピュータモデルでは、たった数百万年で大型の小惑星サイズの塊が数千個合体し、より大きなユニットを形成することが分かっている。それが今、我々が惑星と呼んでいるものだ。
これと同じ原理が家のダストにも大筋で適用されるのだ、とCowen氏は言ってるんですねえ。氏だけじゃありません。あの著名な天文物理学Neil deGrasse Tyson氏もCowen氏の理論と同じ考えなのです。
「[降着で]カウチの下の綿ゴミの起源も説明がつくじゃろう」
宇宙物理学に傾倒するみなさまの意見は有り難く拝聴するとして、家って重力がガシッとかかってるわけですから、小さなほこりの持つ微弱な静電気の力じゃ、せいぜい細かい粒子がくっつく理由の説明になるぐらいのような...。ネズミみたいなゴミの玉をくっつけるには、もっと強い力が必要な気がしますよね!
Baylor大学物理学教授のLorin Matthews氏は、エスクワイア誌に去年こう語っています。
「綿ゴミをくっつける力は、こんがらがったファイバーそれ自体の力かもしれない。もつれて塊になって、糸くずやフェルトみたいになってるんですよ」
大きな皮膚片、毛、虫の破片が出会うと、互いにくんずほぐれつこんがらがって、もう離れようったって離れない! というわけですねーはい。我々人間のマクロな視点からは想像も及ばない話ですけど、顕微鏡でちょっと拡大して見るだけで、あんな典型的綿ゴミの内容物の深遠な世界が見れるわけで、意外と対立してるようで、仲良くまとまってるものなのかもしれません。
綿ゴミの犯人は他にもあります。油っこい料理からもトリグリセリドっていうのが出来て、それがダストの粒子に付着するとベタベタする埃の元に...。
でも埃の原因にはどれも共通の特徴がひとつあります。知らず知らずのうちに溜まる、ということです。 静電気の力は計測不能なぐらいだし、空気の流れも肌で感じられないほど微かなものです。油汚れは美味しい料理を作る上で避けようがない副産物ですから、こればかりはどうしようもないですよね...。
まーしかしダストないところ、綿ゴミもなし。というわけで今日もみなさん、お掃除がんばろうね。
John Herrman(原文/satomi)