トキの飼育繁殖に長年携わってきた佐渡トキ保護センター(新潟県佐渡市新穂長畝)の金子良則獣医師(63)が、同センター勤務30年の節目となることし、「ライフワーク」であるトキの骨格に関する研究成果をまとめた。得られた知見はトキの治療などに生かされており、「骨は体のどだい。形や構造は機能の裏付けがある」とやりがいを語る。
金子さんは1991年に同センターに赴任。それから30年間、トキの飼育繁殖に最前線で取り組む中で着目したのが骨だった。「ある考古学の先生にトキの骨格標本がないと言われ、96年に最初の標本を作った」と振り返る。
その後も成鳥や20日齢、50日齢の死んだ個体を使って何体も標本にした。比較対象として、サギなど他の鳥の骨も集めた。すると、外見だけでは分からない機能や生態の秘密が見えてきたという。
代表例が餌探しだ。田んぼで餌をとるとき、トキは長いくちばしを泥の中に突っ込み、感覚でドジョウなどを探すとされている。骨を調べると、くちばしの先はスポンジのように細かい穴が開いていた。金子さんは「この部分に神経が集中しているために、離れたところの餌にも気付けるのではないか」と力説する。
研究は飼育現場にも還元された。トキは脚の関節の脱臼が多いが、治療で堅く固定してしまうと立てなくなり、餌も食べなくなる傾向があった。骨格を基に、添え木を当ててテーピングするようにすると、「10羽けがをしたら、半分くらい、特に若いトキは救えるようになった」。ノウハウは「飼育ハンドブック」となり、同センターのほか、全国の分散飼育地で活用されている。
30年前、絶滅の危機にあったトキは今、飼育下で約180羽、野生下で400羽以上が生息している。獣医師として、日々トキと向き合ってきたが「興味は尽きないどころか、調べるほどに、ますます分からないことが出てくる。だから面白いし、終わりはない」とほほ笑んだ。