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テレビのワイドショーでコメントをするのは、ものすごく難しい。どんな球が飛んできても打ち返し、しかも自分の個性という付加価値を載せないと生き残れない。しかしいまどき、広い場所で何かを発言するのはリスクしかない。うっかりした一言で誰でも炎上してしまう……そんな中、ぐんぐん株を上げて人気者になった、元地方局のある男性アナウンサーがいる。彼が伝授する「誰にでも好かれる」「嫌われない」会話術とは?(コラムニスト 河崎 環)【この記事の画像を見る】● ワイドショーはなかなかしんどい フジテレビの朝の情報番組で、ちょうどコロナ禍ど真ん中の2年にわたってコメンテーターという仕事をした。まさに本日、3月14日の出演が最後となる。 地上波全国放送、平日朝8時、視聴者層は首都圏・地方問わず老若男女を満遍なくターゲットとする民放ワイドショーという場は、ひと月に一、二度行くだけの身分の私にすら最高の学習機会で、舞台裏はメディアそのもののあり方に関する発見の宝庫だった。 優秀な制作スタッフに心配はかけたくないので、自分のことだけを話そう。レギュラーコメンテーターという仕事を引き受ける人の多くがそうだと思うが、「コメンテーターという生き物」になる。一日24時間週7日間、生活が全て予習タイムとなり、常に自分なりにあらゆる話題を学習し、カメラの前で話すことをずっと頭の片隅に意識して暮らす。世界は事件に満ちている。いつどういうタイミングでどんな話題が自分に降ってくるか見通せず、しかも呼ばれるからには、あらゆるものごとに対して「自分ならではの」、かつ「広く一般向けの」意見・感想を常に準備していなければならない。
ワイドショーなので、新聞で言えば1面からテレビ欄まで全ての話題を、浅くてもいいから広く網羅していること、そこに自分の個性の付加価値を載せることが出演の前提だ。正直、しんどい作業である。今つらつらと思い出すだけでも、「人類の危機」コロナ問題が常にあり、3密に緊急事態宣言に、医療崩壊に時短営業にワクチン。そんなさなかに日米両方で選挙や政権交代。こうした政治・経済・社会面トピックスだけじゃない。夏季・冬季五輪(まさかと思ったけど2年間で本当に両方やるんだもんなぁ、これが)があったし、大谷翔平がばんばか打つからスポーツ面もあるし、藤井聡太がどんどこ勝ち進むから囲碁・将棋欄もあるという状況。 出演予定日の前日に政治関連で何らかの事件が起き、「明日は絶対この話題を取り上げるな」と思って一日予習に費やしたら、全然違う豪雨や誰かの不倫やパンダや、この春お得なサブスク利用術がメインテーマだった、なんてこともザラ。カメラの前で長いマスク生活でも顔がたるまないという表情筋体操もしたし、ギョーザも食べたし、中高生が踊る動画を見てワイプで泣いた。● 視聴者は見抜く!「その人の本質」が簡単にバレるテレビ ああ、私が女優さんやアイドルだったなら。座っているだけでかわいかったり、何げないことを素直にしゃべるだけでお茶の間が沸いてくれたりする知名度と価値のある存在なら、どれほど楽だろう……いや、そんなことはないのだ。生放送の情報番組というのは、一瞬の表情、演出された仕草、うその含まれたしゃべり方、本当の経験や知識、その人間の本質を容赦なく映し出す。視聴者はあざむけない。どんな人気芸能人でも本性が出て、「あ、動いてしゃべる実物はこういう人なんだ」と、いろいろバレる。座っているだけでいいなんてことはまずないから、生放送は怖い。