「ドローン空撮の基礎」について解説するこの記事シリーズ。3回目の本記事内容もまた、空撮初心者にとって参考になるような事例をご紹介します。
「いろはにほへと」「ちりぬるを」に沿って注意点をご紹介してきました。3回目の本記事は「わかよたれそ」に沿って解説をしていきます。
もくじ
空撮初心者のうちは初めてのことだらけですが、ある程度空撮の回数をこなしていくと慣れというものが出てきます。
例えば、アームして離陸した後のスティック動作のチェックなど、ベテランになるほど、きっちり確認するというより離陸から少し移動させる過程で確認の動作を入れたりするので、初心者のように時間をかけません。
慣れてくると怖いのは「確認したつもり」という過信です。これまでの空撮で、私が経験した2つの事例をご紹介します。
目視外で引きの映像を撮るためには、現地ロケハンで障害物の有無を確認したり、補助者を立てて確認してもらったりなど、慎重に準備を重ねて撮影をします。しかし、慣れてくると、確認したつもりが障害物があることをすっかり失念し、結果的にドローンを引っ掛けて墜落、ということが起こります。この事象、実は撮影していない時に起きたりするのです。
撮影が一通り終わり後は離陸地点に戻すだけといった時。最後にちょっと撮影しながら機体を戻すか、などと余計なことを考えた時に起きたりするのです。補助者も撮影が終了し、あとは機体を戻すだけと思っていますから、注意が平常よりも緩みます。
そんな時に、障害物を確認していたはずなのに張ってある電線や張り出した木々の枝に引っ掛けてしまうのです。無事にドローンが着陸するまで、絶対に気を抜かない。これはパイロットも補助者も同様に気をつけましょう。しっかりとドローンが地上に着陸するまで、緊張の糸を貼りながら空撮するようにしましょう。
この事例は慣れということに加え、機器の不幸な障害が重なって起きた事故です。
ドローンから送られる映像は、通常であればリアルタイムに送信機のモニターで確認できます。しかし、そこは電波のため、厳密には遅延が発生していることが多々あります。そのためリアルタイムの映像を見ていると思っていたら、バッファに残った残像を見ていた、ということもあります。
そのような事象に不幸な偶然として起きたのが水の上での空撮です。水面に近いところで下降しつつ撮影をしていたところ、一瞬、映像が乱れ見えなくなりました。しかし、すぐに回復したので、撮影を継続し下降の動作を続けました。気付いた時には、そのまま水面にドローンを突っ込んでしまっていました。映像は数秒前の映像で、機体の高さは表示された高さよりも、実際に低い位置にいたわけです。
これは気を付けようにも気を付けにくい事象ですが、このようなことも起こり得ることを考慮して、ドローンが安全な高さにいるかを常に確認することが必要です。そのために目視で監視する補助者の役割が活きます。これから本格的な空撮をされたい方は、最初のうちは必ず補助者を立てて撮影することをおすすめします。
ドローンは風に弱いです。地上で5m/s以上の風が吹いていたら飛行をしないのが、ドローンスクールなどで習う一般的な認識です。では、今、風がどの程度吹いているのかを知るためにはどうすれば良いでしょう。
最初のうちは風速計を用いて常に計測するようにしましょう。これは、吹いている風が5m/sかどうかを体に感覚で覚えさせるという目的があります。慣れてくると体感で風の強さを測ることができ、あの時にドローン飛行できたから今回もできそうだ、あの時より風の勢いがあるから今回はやめておこう、など経験で判断できるようになります。そのリミッターが何m/sなのかを数値で知っておくことはとても重要です。
また、地上で5m/sある時は上空ではもっと風速が増している可能性が高く、ドローンの性能上の限界値である10m/s以上の風になっていることが想像できます。送信機のモニターには、すでに強風に注意のワーニングメッセージが出ているでしょう。それでもドローンが風に負けてその場に落ちるということはよほどの突風でもないと起きないかと思います。心配すべきは、その風で果たして離陸地点まで戻ってこれるか、という点です。上空の風が強そうな場合は無理して飛ばさないようにしましょう。
風が強くドローンが戻しにくいことが解ったら、バッテリー残量があるうちにできるだけ高度を下げて戻す、あるいはモードの変更が可能ならスポーツモードなどで出力を上げて戻すなど、風を考慮して安全に離陸地点に戻せるようにしましょう。
ドローン本体やバッテリー、送信機以外に、空撮に必要なものはいろいろあります。それらのいくつかが欠けると、何もできなくなる場合もあります。ドローン空撮に必要なものの準備は余裕をもって行いましょう。
たとえば車で現地に到着し、駐車位置から離陸ポイントまで相当の距離を歩いて向かわなければいけないという現場のときは持っていく荷物を必要最小限にすると思います。何かが不足していてそのたびに車まで戻らないといけない、ということを避けるためにも、必要な備品類はできるだけコンパクトにまとめて過不足なく持っていくように準備しておきましょう。
ドローン空撮が中級レベルになっても怖いのは、滝の空撮です。滝は、ひらけた場所にある大きなものならともかく大抵は山間にあることが多く、GPSが入りにくい場所での撮影になります。周囲には見るからに引っ掛かりそうな枝ぶりの木々があったり、人工物であれば、展望台やそこに張り巡らされた電線もドローン空撮の邪魔になることがあります。
しかし何といっても滝の怖さは「挙動が変わることがある」ところだと思います。狭い場所でかつ水の上であり、かつ霧状の水分が空気中にあることが電波に対する何かしらの影響を与えるのかもしれません。急に機体が向きを変えたり、ドローンを上昇させたくても上がらなかったり(GPSを捕捉していない状態ではビジョンセンサーが働く高度制限になることもある)そうした機体操作上のイレギュラーな動きが滝の撮影では起きることがあります。
どのような現象が出ても焦らずに対処しましょう。焦って機体を急に動かそうとすると、余計に制御できなくなることがあります。ゆっくりと、自分が操作できるのはどのコマンドかを見極めながらできることで対応するようにします。そのためにも、無理なスピードは出さず、動きがおかしいと感じたら迷わず止めましょう。場合によっては、すべてのセンサーを切った方が操作しやすいこともあります。
夏場に長時間のフライトをすると、ドローン機体や送信機など様々なところに熱を持ちます。機体であればモーター部分とバッテリーには特に注意してください。バッテリーは温度管理が大切で、必要以上に温度が上がると危険な状態になります。また温度が高くなり過ぎると充電ができなくなります。
夏場はバッテリーの温度も気になるところですが、iPadやCrystalSkyのようなモニターのほうが熱には敏感です。モニターが熱暴走を起こすと、受信映像の表示がまともにできなくなり、ブラックアウトすることもあります。モニターが熱を持ってきたら、なるべくすぐに冷やすようにしましょう。
モニターが1つしかない場合は、パイロットは日陰で操作するなど、なるべく温度が上がらないようにしましょう。私は「冷えピタ」などの冷却シートをiPadの背面に貼り付けたりします。冷却シートは、ジェルに含まれる水分が蒸発することで、その気化熱で温度を下げるものですが、iPadにもいくぶんの効果があるようです。できればiPadを2つ以上用意し、フライトごとに交換しながら、使わない方を冷やしておくという運用ができると良いでしょう。
DJI製品を使っている人限定の内容になりますが、DJI Go4アプリには飛行記録を見ることができるページがあります。DJI Go4アプリを起動し、下段にあるメニューから、[マイページ]を選択すると中段あたりに[飛行記録]がありますのでタップします。そうすると、機体ごとにこれまでのフライトリストを見ることができます。
フライトリストには、いつ、どこで、どのくらいの距離と高さを、何分間フライトしたかがリスト表示されています。ここに表示される情報は、四半期に一度の国交省への飛行記録報告の際にも利用できます。このリストから更に詳細をタップすると、飛行経路とその操作を、そのまま見ることができる画面になります。ここで離陸から着陸まで、一連の飛行経路を再現することができます。下段のメニューに送信機アイコンがあり、これをタップすると、スティックをどのように操作したかも見ることができます。
自分が空撮被写体に対して、どのように考えて機体を操作したのか。改めて思い起こしながら、操作上の反省点はなかったか、もっと違った飛行経路や操作ならどのように撮影できたかなど、ドローン空撮を細かく振り返ってみるのもトレーニングの一つになります。
もともとは、事故が発生した際に不要な操作をしていなかったかなどの確認のために利用する機能だったかもしれませんが、せっかく付いている機能ですから、自分の操縦技術向上のためのツールとして活用しても良いと思います。
いかがでしたでしょうか。今回もドローン空撮時に使えるちょっとしたノウハウ的なものを書きました。一つ一つは大したことのないノウハウのようにも見えますが、その一つ一つを自らの体験や知見として吸収していくことが大事です。
小さな経験は、その後の大きな糧となります。本記事で知っていることでも知らなかったことでも、改めて自らの経験として蓄積し、より幅の広い空撮体験を拡げてほしいと思います。