大塚理事長(以下、大塚)― 今回のエコチャレンジャーには、中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)の代表取締役社長をされております、小林正明さんをお迎えいたしました。JESCOは、中間貯蔵・環境安全事業株式会社法に基づき、国の全額出資により設立された特殊会社です。国等の委託を受けて行う中間貯蔵事業と、そして旧日本環境安全事業株式会社からのPCB廃棄物処理事業を受け継いで、今日の日本にとって大事な、「負の遺産」の処理という、避けては通れない事業を担っておられます。
本日は、こうした課題に取り組んでおられる小林さんから、対応の状況や今後の予測を含め、お考えを伺えればと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。さっそくですが、JESCOについて事業内容を中心にご紹介いただければと思います。
小林さん― 今日はこのような機会をいただきありがとうございます。中間貯蔵・環境安全事業株式会社という非常に長い名前の会社は、ご紹介いただきましたように、法律で役割が定められ国が出資して設立された株式会社で、歴史的ともいえる課題に取り組んでいます。株式会社ではありますが、株主は2人、財務大臣と環境大臣です。株主総会ももちろん毎年開催しておりますが、株主よりも役社員の方が多いという、ちょっと不思議な会社です。
JESCOは、日本環境安全事業株式会社という、PCB廃棄物【1】の処理に取り組む会社でした。ところがご承知のように、東日本大震災の際の東京電力福島第一原子力発電所の事故により、環境中に放出された放射性物質を取り除く除染【2】で発生した土壌や廃棄物等を一定期間保管するための中間貯蔵が新たに実施されることになりました。中間貯蔵は30年という息の長い事業なので、国が責任を持って行うことを確保しつつ専門的な会社組織で支援することが必要ということになったのです。そのための組織を新たに設立するという考えもあったのですが、それまでJESCOが行っていたPCB処理事業が、危険性があり国民の皆さまから懸念をもたれている事業を地元の理解を得ながら進めるという意味で共通すると判断されたのです。いわば、中間貯蔵事業をなるべく一気に進めるための発射台のような役割といえます。
現在は、PCB廃棄物処理事業と放射性物質により汚染された除去土壌等の中間貯蔵事業の2本柱に取り組んでいます。業務の性格は違いますが、中間貯蔵は地元の理解を得て福島県内で実施していますし、PCB廃棄物処理も引き受けていただいた地元のご理解があって実施できるわけで、地元と連携して進める点では共通しています。どちらの業務にも、安全第一・環境第一をモットーに取り組んでいます。
大塚― 多少婉曲におっしゃられたかもしれませんが、JESCOがPCB廃棄物処理の際に全国展開し突破口を開いたことが、今回、中間貯蔵を担うことになったポイントだったように感じています。
小林さん― そうですね、そういう側面もあるかと思います。どちらの事業も期限があって、それに合わせて仕事をしないといけないところも大きな特徴です。その意味では、新しい社員を採用して育てていくというより、即戦力の人に集まってもらっていますので、年季を積んだ新入社員が多いのです。シニア社会のさきがけとの思いもあります。中間貯蔵を担当する社員とPCB廃棄物処理を担当する社員は、職場も離れていますから直接かかわることはあまりありません。しかし、私からは中間貯蔵を担当する社員に、PCB廃棄物処理の歴史があったおかげでここまでできたことを忘れてはいけないといつも話しています。PCB廃棄物処理は平成16年に始まったので約15年経っているのに、中間貯蔵はスタートしてから昨年末で丸5年、やっと5歳になったばかりです。15歳と5歳の組織が、連携して事業に取り組んでいるという感じです。
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中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)の事業の2本柱「PCB廃棄物処理事業」及び「中間貯蔵事業」
大塚― 今お話いただいたように、JESCOはPCB廃棄物処理事業でスタートし、5年前から中間貯蔵の事業を始めました。東京電力福島第一原子力発電所の事故からは、もう9年になります。この間、環境省では、福島県内の除染に伴って発生した土壌や廃棄物等を最終処分するまで、安全に集中的に貯蔵する施設として中間貯蔵施設を整備してきたわけですね。いろいろなことがあったかと思いますが、現在までの進捗状況を小林さんはどのように見ておられますか。
小林さん― ご指摘の通り、東日本大震災から、この3月11日で丸9年が経つわけで、ちょっと長い時間が経ってしまったという気持ちはあります。ただ、中間貯蔵事業自体については、大きく進捗していると言えると思います。原子力発電所の事故があって、福島県の皆さん方の生活域に放射性物質が放出されてしまいました。これを除染をして剥ぎ取った土や草木を詰めた大型土のう袋【3】の山が福島県の各地にできておりました。物理的にも復興の支障になりますし、またこれを見るたびに当時の状況を思い出して復興の気持ちが削がれるという地元福島県の皆さんの声もありました。もともと中間貯蔵施設に入れるという約束で仮置き場を貸していただき、除染を進め、復興への取り組みを進めてきたわけです。紆余曲折はありましたが、福島第一原発をとりまく1,600ヘクタールの土地の取得をめざしており、今現在、取得あるいは地上権を設定できたエリアが1,100数十ヘクタールになり、他に公有地があります。土地の取得は国が前面に出て進めており、JESCOはタッチしておりませんが、今申し上げたように地元のご理解のおかげで用地の手配が随分進んでおります。福島県の皆さま方は、とにかく除去土壌等を一日も早く中間貯蔵エリアに運んでいってほしいというご希望をお持ちで、これに応えるのが私たちの使命ですが、先祖伝来の土地をご提供いただくという、苦渋の選択をされた地元の住民の皆さんのご決断の上に立っているわけです。
大塚― よく分かります。事業の進捗状況についてもお願いします。
小林さん― 今行っている中間貯蔵事業は、エリア内に除去土壌等を分別して収容する施設を順次造成することです。しかし、その完成あるいは進捗を待ってはいられませんので、並行して除去土壌等をエリア内に運び込んできました。最初はエリア内に仮置きのための保管場を設けておき、施設がだんだんできてくるのにつれ、除去土壌等をなるべく直接施設に運び込むようにしています。輸送のペース、つまり片付けのペースを上げようとしています。しかしもちろん、輸送中に事故を起こさないように、また途中の環境にも悪影響を与えないように注意をしながら進めています。このように、施設整備、輸送、処理が、時間とともに面積・規模を拡大しながら進むという複雑な事業ですが、一言でいうと非常に進捗しております。現在、福島県内の各地から、計画された経路を通って除去土壌等を運んでいるわけですが、1立方米くらいの除去土壌等が詰まった重さ約1トンの大型土のう袋6〜7個ほどを10トンのダンプカーに積みシートをかけて運んでいます。ここ数か月は1日のべ3千台という、相当なテンポで輸送が進んでいます。福島県各地の大型土のう袋が、着々と中間貯蔵施設に運び込まれています。
大塚― 計画していたペースで、かなりの数が中間貯蔵施設に運び込まれているようですが、今後の見通しはいかがでしょうか。
小林さん― 環境省が地元に約束したのは、輸送のペースを順次上げていくことです。昨年度は180万袋になりました。一昨年度は50万袋でしたから、3.6倍くらいになっています。今年度は400万袋と、さらに2.2倍をめざしています。非常に高い目標で、完全に達成できるかどうかは微妙なのですが、ほぼそれに近い数を達成できそうな状況になってきました。これから、令和2年度、3年度に予定通り輸送できれば、これまで除染によって発生した1400万立米もの除去土壌等の輸送がほぼ片付くことになります。ただ、除染自体は帰還困難区域でまだ進行していますので、これから増える分については、今後の課題になります。それでも、復興に支障がない形に実現できると思います。
仮置き場から搬出される大型土のう袋
中間貯蔵施設への輸送
大塚― 中間貯蔵の全体状況についてご説明いただきましたが、少し話題を変えさせていただきます。全町避難が続いていた福島県大熊町では、昨年(2019年)4月に新庁舎が開庁し、復興の機運も高まっていると思います。その大熊町に、中間貯蔵工事情報センター【4】が開設し、今年(2020年)1月で1周年になりました。この情報センターの役割、あるいは住民の方の受け止め方はいかがでしょうか。
小林さん― この情報センターは、「工事情報センター」という言い方をしています。完成形の情報センターではなく、工事中の情報発信をするためのものです。建物自体は、国道6号線沿いにあったラーメン屋さんの建物をそのまま改装しており、当時のことを思い出す方もいらっしゃるようです。スペース的にはコンパクトな施設となっています。中間貯蔵事業は大きく進捗していますが、まだまだ途上ですので、輸送時の環境には十分気を使っています。先ほど申し上げた3千台のダンプも、1台1台にGPSを付けて、運び出したものが確実に中間貯蔵区域まで運び込まれていることを監視ルームで確認しています。通るルートも、地元と調整をしています。それが地元の方の安心につながるわけです。1回運び入れたトラックは、運転手さんとともに、必ずスクリーニングによって汚染がないことを確認し、すべてチェックしてから外に出てもらっています。また、途中の経路では、放射能レベルだけでなく、大気汚染や騒音も測定しています。運び入れている除去土壌等の放射性物質濃度は、8千ベクレル以下というような低い濃度が大半という状況です。ただ、どうしても高濃度の除去土壌が運び込まれ、汚染された地域ができるのではないかというイメージがあるかと思いますので、客観的データを示して、どのような状況であるかを発信することが重要で、その発信を担うのが工事情報センターなのです。エリアの中で、土壌の貯蔵施設、あるいは分別施設などが順次造られ、そこに除去土壌等がどんどん運び込まれていますから、そうした時々刻々と変わる状況をドローンで撮影し、数か月ごとに更新して映像でご紹介しています。ご指摘の件ですが、地元の区長さんのお話を聞くと、エリアの中で気になる場所があるといいます。地元にある、もとの小学校であったり、神社だったり、それらの状況を知りたいとのことですので、これらの場所の状況についても一覧できるようにしています。広いエリアに順次施設ができていくわけですが、その中を車で走りドライブレコーダーで撮影していきます。あたかも中を巡っていくような臨場感のある映像で、地元の方がご存知の場所が今どんなふうになり、どんな施設が整備されているかもわかるように提供しています。もちろん、どんな手順と仕組で工事が進んでいるのか、測った線量はどうかといったことも発信していますので、来ていただいた方からは、状況がよくわかるとおっしゃっていただいています。
大塚― 最初に小林さんがおっしゃったように、物としての貯蔵のこともありますが、住民の方々の理解を十分に得ながら作業を進めることが大事なのだろうと思います。
小林さん― 工事情報センターができてちょうど約1年です。平均すると、1日に30人くらいの方がコンスタントにご来場いただいています。来場者にはアンケートもお願いしており、そのデータで見ると半分強が福島県外の方です。福島県はいろいろな風評などで苦しめられていますから、こうしてきちんとしていることを県外の方々に知っていただくことが大事だと感じています。もちろん、一番関わりのある県内の方、特に大熊町や双葉町の方々には、複雑なお気持ちもあることは承知しているものの、ぜひ見ていただきたいのです。情報発信の仕方についても、まだまだ改善の余地がありますので、ご注文を受け止めて工夫していきたいと考えています。
大塚― 工事情報センターをさらに充実させてください。
小林さん― もう一つ、お話しさせてください。つい最近のことですが、中間貯蔵施設内に技術実証フィールド【5】をオープンしました。もともと工事情報センターとともに、研究施設を造ることを地元の方にお約束していましたが、具体的なイメージはそれほどはっきりとしたものではありませんでした。いろいろと考え、実証フィールドという形で、研究のためのフィールドを用意することにいたしました。全体が2ヘクタールほどで、4面に分かれています。ここでは、運び込まれた除去土壌などの比較的放射性物質濃度の高い試料を提供し、さまざまな研究をしていただくことを考えています。もちろん、環境省や国立環境研究所、民間企業の研究開発部門の方々、あるいはわれわれが研究に使うことを想定しています。
大塚― もう完成したのですね。
小林さん― 1月30日に完成しました。特徴の一つが、公募による実証研究の場として、実証フィールドを活用していただくことです。除染の時代から広く知恵や技術を募って事業を進めてきましたので、多くの方が実証研究に関わっておられますが、テーマは、除染から、減容化や再生利用、あるいは最終処分へと変わり、放射能汚染に関する教育のようなソフトな研究にも拡大しています。実証フィールドが核となってネットワークが広がっていくことを期待しています。ここで行う公募による実証研究の研究費は、環境省の予算を私どもが事務局として配分するものなので、資材や分析施設を提供して研究の促進に全力をあげていただけるようにしたいと考えています。成果をあげていただき、町の復興ともうまく連動してくれるといいなと思っています。
大塚― ぜひ育てていただければと思います。
工事情報センター
技術実証フィールド
大塚― ここからは、JESCOのもう一つの事業の柱である、PCB廃棄物の処理についてお伺いしたいと思います。PCBは、1970年代の日本で大変な状況を引き起こし、日本の環境行政が大きく変わったようにさえ思われます。その後、いろいろなことがありましたが、PCB廃棄物の西日本での処理期限が迫っているなど、全体としてはかなり終盤に近づいているように思います。
小林さん― PCB廃棄物の処理は、なかなか処理が進まないまま何十年が経ってしまったのですが、JESCOがこの15年間手がけてまいりまして、ようやくだいぶ進んできたといえると思っています。PCB廃棄物の処理は、もともと民間ベースで進めようという試みもあったのですが、地元の理解が得られず、やむなく国で進めることになりました。それでJESCOが設立されたという経緯があります。民間企業には焼却処理にチャレンジしたところが多かったのですが、JESCOでは外に煙を出さない化学処理をしています。いろいろな調整をした結果、全国の5箇所で処理を引き受けていただくことになり、作業は順次進んでおります。開始時期が違うものですから、それぞれ地元との約束で処理を終える時期を取り決めております。北九州の事業所が、北九州市のご理解をいただいて一番先にできました。その処理の対象は、九州各地だけでなく岡山以西や四国からのトランス及びコンデンサーと西日本各地からの安定器や汚染物です。トランス及びコンデンサーの計画的処理の完了期限が、実は昨年の3月31日でした。その時までにトランスとコンデンサーの処理を終えるという地元との約束の下でやってまいりまして、JESCOに入ってきたものについてはすべて処理を終えています。第一段階の締切はなんとか守ることができたので、この後の処理につなげていきたいと考えています。トランス・コンデンサーについて、北九州の後、大阪では令和3年度末に処理期限を迎え、さらにその翌年には東海4県をカバーしている豊田と、東京および北海道で一斉に期限を迎えます。トランスやコンデンサーは、サイズの大きいものが多く、電気事業法での規制もあり把握しやすいという側面がありました。中には、一部屋くらいの大きなものもあり、搬送もできませんから、現場に出向き時間をかけて対処してまいりました。現在までに、トランス及びコンデンサーは量的にはかなりの処理ができたと思いますが、この他にあるのは、安定器や感熱紙、さらにはウエスのようなものですので、全部の把握がしづらいところがあります。今、北九州の事業所では安定器などの処理に移行しています。その期限である令和2年度・3年度に終わらせようと急ピッチで進めています。九州の他、中国・四国地方や近畿地方、東海4県などからも処理物が入ってきますので、それらをすべて処理しなくてはならず、大きな課題です。これからもトップランナーとして、まだまだ大きな役割を担っていきます。そして、ほかのどの地域にも、順次期限がきますので、しっかりと対応していこうと考えています。
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高濃度PCB廃棄物の処分期間と事業エリア
大塚― 日本全体としては、どの程度進んでいるのでしょうか。
小林さん― 全体として順調に進んできており、トランス及びコンデンサーの処理率はすでに8割を超え9割ぐらいまできています。何十年間にもわたりPCB廃棄物の処理ができないままで環境上のリスクがあったことを考えると、かなりのところまできていると思います。ただ、最後まできっちりやりきらないと完成しない仕事ですし、最後の方は処理が難しいものや、探し出すのが難しいものもあります。トランスやコンデンサーでも、倉庫に眠っていて出てきたものがありましたし、安定器は蛍光灯の裏やオフィスの天井裏などにもあって、結構裾野が広いのです。今、自治体さんが掘り起こしの作業を進めているのですが、安定器が結構たくさんありそうだとわかり、相当大変な作業になると思っています。その意味では、私どもも処理能力をアップさせるなどの努力をいたしますが、多くの方に関心をもっていただき情報をいただきたいのです。
大塚― 処理技術はあっても、大きなものは現場での作業が必要だったり、小さなものでは掘り起しが大変だったりと、苦労されておられますが、終盤に近づいているように伺いました。
小林さん― そうですね。とはいえ、最後の最後、どれだけ掘り起こしをしてどこまで処理できるかは、ちょっと予断を許さないところもありますから、しっかりと進めていきたいと思います。先ほど述べたように、最近はトランス、コンデンサー、安定器などに加え、塗膜などいろいろなものも注目されてきています。日本では、政策判断によりすべてを国策としJESCOの事業として進めてきましたが、民間の実力もついてきていますから、民間で処理できる基準の見直しなどに合わせ民間に担ってもらう部分があると思います。JESCOの事業と民間の事業をうまく連携させ、より多くの処理を進めていければと思います。国際的にみると、PCB廃棄物については国際的取り決めとしてPOPs条約【6】が背景にあり、期限はまだ先とはいえ、だんだんと迫ってきており、世界各国も関心を高めています。去年も京都でダイオキシンとPCBに関連する国際会議【7】が開催されましたが、海外でも焼却処分だけでなく化学処理への関心が高まってきています。日本ほどきっちりとした処理は難しいとしても、より簡便な形での化学処理を進めようとしている国もあるようです。途上国でも焼却場に対する住民の懸念が強いようで、日本の化学処理の経験がアジアをはじめとする各国に役立つかなと思っています。
トランス・コンデンサーの化学処理フロー[拡大図]
安定器、感熱紙、ウエス、塗膜などの処理方法[拡大図]
大塚― JESCOの事業についていろいろと伺ってまいりましたが、小林さんは環境行政に長年にわたり携わられ、環境に関していろいろな考えをおもちですので、エコチャレンジャーの読者の皆さまに向けたメッセージをいただければと思います。
小林さん― 私自身、何十年も環境省で仕事をしてきましたが、株式会社の経験は初めてになります。民間の立場から環境に関わることになって、最近非常に気になっているのが災害の頻発です。私どもの会社も各地に事業所がありますから、台風や大雨などによって、これらのどこかに影響があります。気候変動は、環境問題の中でも別格の大きな問題だと思っていましたが、適応【8】という視点から対応していくことが、ますます現実のものとして求められています。従来の常識になかったことが、残念ながら起こるという前提で、しぶとく受け止める体制を作っていかなくてはいけないと思います。おそらく、ハードな面での対応だけでは不十分で、都市計画も大事でしょうし、暮らし方も大事になってくると思います。私どもが取り組んでいるPCB処理や中間貯蔵も、このような適応の問題と共通している面があると思うのです。中間貯蔵事業で除去土壌等を全部貯蔵施設に運び込みさえすれば、事業としてはある意味でひとつの区切りになるのですが、復興が進んでいく中で、このエリアがどういう場所になるのかにも、だんだんと関心が高まってきています。PCBの場合も、処理が終わったら仕事も終わるので、解体・撤去して下さいねということで完結することになるのですが、結構な人数で事業を展開してきて、だいぶ地域の方々と馴染んできたこともあり、自分たちの当面する仕事が終わった後も、地域の中で何か新しい役割を果たしていけないかという声が出てきています。テーマは「環境」になるのでしょうが、SDGs【9】やESD【10】の考えなどを含め、どういう地域をつくるのかが、本当の意味での事業の後継あるいは完成のために問われているように思います。
大塚― 地域の環境を考えるには、根っこのところが本当に大事だと思います。小林さんは現場を見ながら仕事をされ、今お話いただいたことは、一つの進むべき道かなと感じました。
小林さん― 福島は、避難指示が解除されても、どれくらいの人が戻ってくるのかが大きなポイントです。町の当局でも、住民が戻って町が完全に元に戻るというだけでなく、新しい人が入ってきて、新しくまちづくりをしてくれればいいという考えもあるようです。その時に、中間貯蔵区域がどうあるべきかが気になります。30年後には県外での最終処分になるわけですが、それまでにまだ25年もあります。その間、どういう役割を果たしていくかが重要になっていくのではないかとも考えています。全国各地で災害も激しくなってきて、最近のように新たな感染症のリスクなども高まり、一方で人口が減るなど、地域の活性化をどうやって図っていくかという課題が山積みになっています。復興をめざしている福島の各地域、あるいはPCB廃棄物処理の場合は大きな跡地ができてしまうような地域は再編を想定しながらも、白紙からのまちづくりの絵を描いていくようなことがあるかもしれないと思うのです。温暖化の話も、中間貯蔵物が最終処分をどのように迎えるかも、何十年がかりの話ですから、深い関りをもち決定権をもつ若者の役割が大きくなっていきます。それらの人たちが、これからの方向性の決定に積極的に関わることが大事になると思っています。
大塚― 現場での経験に基づいて、新しい問題提起をしていただいたように感じます。これからも、事業の着実な前進とともに、将来を見据えた方策づくりにご尽力いただきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。
中間貯蔵・環境安全事業株式会社・代表取締役社長の小林正明さん(右)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長の大塚柳太郎(左)。