ジェローム・コームズがTikTokでバズったとき、彼は終身刑の刑期の13年目だった。刑務所内の禁制品であるスマートフォンをどうにか入手すると、彼はすぐにTikTokアプリをダウンロードした。そして、カリフォルニア州にある刑務所の監房で料理する様子をアップロードし始めたのだ。
コームズは動画のなかで、ブリトーやタコス、それに手の込んだケーキの調理法を順を追って説明している。使うのは、刑務所内の食堂や売人から入手した袋入りの食材のみだ。別の動画では、金属製の寝台の下にホットプレートを置いて、即席の鉄板をつくる方法を説明している。そこで調理するのだ。
コームズによると、これらの動画は「ほとんど瞬間的に」TikTokで人気になったという。今年はじめの立ち上げ以来、彼のアカウント「@jmoneytheprince」は300万近くの「いいね」を集めている。「おれに才能があることを母親は知ってた。でもいまでは、それを世界が知るところになったというわけだ」と、彼は言う。
彼が成功した理由のひとつとして、TikTokの「For You」ページの存在がある。これはユーザーがすでに登録しているアカウントだけなく、トレンド入りしている映像やお薦めも混在するページで、ほかのプラットフォームと比べてフォロワーを増やしやすい。
TikTokで有名になった囚人はコームズだけではない。TikTokの“刑務所モノ”では、嘘偽りのない服役生活を垣間見ることができる。コームズの言うところの「普通とは異なる」コンテンツを見せているのだ。「みんなおれたちが所内でケンカばかりしていると思ってるだろうけどね」
TikTokでありがちな短いダンス映像が多くを占めるなか、刑務所の日常を記録することで人気を集めているアカウントもある。“刑務所ティックトッカー”の「@Yandy007」こと通称・Yandyは、自分や囚人仲間がタトゥーを入れたり、所内の“床屋”へ行ったり、監房で自作の充電器を使って携帯電話を充電したりする映像をアップロードしている。息抜きとして、Yandyはカメラに向かって「モノポリー」のおもちゃの紙幣をばらまいて見せたり、コカ・コーラやファンタ(彼は「刑務所のワイン」と呼ぶ)を何リットルも並べてみせたりしている。
Yandyのすべての動画のなかで、囚人たちは居住区でマスクを着用している。新型コロナウイルスのパンデミック以降、生活が劇的に変化したことを如実に物語るものだ。所内では他者と距離をとることが実質的に不可能であることから、受刑者はそれぞれの房に引き込もっていることが多い。ジェロームもYandyも自由な行動が制限されたので、切実に必要としていた娯楽を得るためにTikTokをやり始めたと語っている。
そしてもちろんこれらの動画は、自宅から出られない人たちにとってクチコミのネタになっている。「みんなにとって最高だろうな。そんな気分じゃなかっただろうし」と、コームズは言う。ネットに何かを投稿する囚人の姿はあまり馴染みがないだろうが、実際のところスマートフォンは想像以上に刑務所でありふれた品なのだ。ソーシャルメディアのアカウントをもつ囚人も増えている。
携帯電話を刑務所に持ち込む方法は無数にある。例えば、買収された職員やドローンを使う方法のほか、単に壁の外から投げ込むことも可能だ。