COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の流行により、在宅勤務やリモートオフィス勤務など、テレワークが広まっている。以前から「働き方改革」の一つとしてテレワークが取り上げられていたが、緊急事態宣言により、テレワークの推進が一気に進んだ。とは言っても、過去数十年間にわたって続いてきた、会社員は定まった時刻、オフィスに集まって顔を付き合わせて仕事をする、という古い体制から脱却できない企業も多い。業務の進捗管理、社員同士のコミュニケーションの取り方、勤務時間の把握、給与など、さまざまな課題も山積みだ。
本書は明智書店という、架空の出版社に勤めるA君が主人公。明智書店は老舗出版社で、年配の社員はアナログ派。紙と対面での業務にこだわっている。一方、若手のA君はデジタル世代。テレワークを積極的に取り入れつつも先輩社員との軋轢、家族との問題、仕事の進め方、労働時間と給与のことなどで悩みは尽きない。
それでも出版社、特に単行本中心のところだとテレワークは導入しやすいだろう。短時間で同時並行的に多くの作業を進めなければならない雑誌編集部と異なり、単行本の編集では同僚とのやりとりはあまり発生しない。単行本編集の業務は、編集長と著者、それにデザイナーや校閲といった人とのやりとりが主だ。
私自身、執筆中の単行本は、担当編集者とメールで打ち合わせ、メールで原稿を送り、PDFとなった校正をダウンロードして印刷、それに赤字(修正)を入れ、PDFにして送り返すという手順で進めている。担当編集者の方とは、ほとんど顔を合わせることはなくとも、きちんと仕事は進んでいく(ちなみに、本記事の担当編集者とは一度も顔を合わせたことがない)。
業務の進め方については会社によって、職種によっていろいろあるだろう。どうしても担当者同士が顔を合わせなければ進まない、というところもあるかもしれない。だが、「これまで対面で仕事をしてきた、テレワークなどやったことがないから、これからも対面で仕事を続ける」という、守旧的な考え方で仕事のスタイルを変えないのであれば、事業そのものが時代の流れに取り残される危険性があるのではないか。本書の帯では「やるか、やらないかではない。どう取り組むかだ!」と煽っている。