Sabertoothとほかの南極海の探索ロボットとの違いは、ケーブルにある。通常のロボットは主に自律走行で調査する。つまり、研究者がロボットに対し、ある一定の範囲を自律的に探索するよう指示しているのだ(これは火星探査車が自律走行する理由に近い。火星では通信に時間がかかりすぎ、海水はレーダー通信を通さないことから自律走行の仕組みを採用している)。
だが、Sabertoothはハイブリッドなロボットである。つまり、南極の海底を自律的に移動しながらも、必要なときはオペレーターが制御できるのだ。とはいえ、ケーブルからロボットに電力の供給はできない。ケーブルを太くすると海流に流されやすくなってしまうからだ。
エンデュアランス号の船長が船の最後の位置を記録していたことから、研究者たちは沈没船の場所のおおよその見当はついていた。しかし、船長の記録は20世紀初頭に使われていた方法で、現代のGPSの精度より劣る。そこで研究者たちは、Sabertoothが自律的にウェッデル海の海底を移動しながらスキャンし、砕氷船ではソナーの分析者がリアルタイムで取得したデータを解析するようにした。
そしてついに、間違いなく沈没船とわかる反応(少なくともソナーの分析者にとっては明らかな反応)を見つけたのである。「初めてエンデュアランス号を見たときの、みんなの顔は忘れられません」とヴィンセントは振り返る。
ところが、運悪くロボットのバッテリーはあと1分相当しか残っていなかった。「すぐに潜水を中断し、ロボットを引き上げて充電しました」とヴィンセントは説明する。
とはいえ、研究者たちはついに史上最も有名な難破船を発見した。映像を撮影するために充電したSabertoothを再び潜らせると、そこには驚くほど保存状態のいい木造船の姿があったという。
この難破船は南極条約により史跡および遺物として保護されていることから、研究者たちは外部から見ることはできても、触れることはできない。しかし、映像がすべてを物語っていた。動画からは、船尾に書かれた船名や折れたマスト、操舵のホイールまではっきりと見てとれる。
皮肉な話ではあるが、エンデュアランス号を沈めた南極の海の厳しさが、ほかの沈没船にはない良好な保存状態を保っていた。木造船は微生物のほか、木をかじって最大5フィート(約1.5m)ほどまで成長するフナクイムシと呼ばれる生物のせいですぐに腐ってしまう。しかし、南極には木がない。つまり、木を分解して栄養分を得るために進化した生物が、この周辺の海にはいないのだ。