文化生活部 宮城徹
77歳の今も現役で活躍するダンサー田中泯の生き方に迫るドキュメンタリー「名付けようのない踊り」は、世界のさまざまな場所で踊る現場を追い続けた。犬童一心監督は「効率による支配を静かに拒む姿を見る人に投げ掛けたい。無二の存在感に引きつけられる」と話す。
市民が行き交う街角、緑が風に揺れる森、波の音だけが聞こえる海岸-。田中がさまざまな場所で即興で踊る「場踊り」を、ポルトガルやパリ、福島などでカメラに収めた。雄大な自然の中で、流れる雲までが踊りと一体に感じられる。 過去作品で出演を依頼した縁から、ポルトガルでのアートフェスへの同行を誘われた犬童監督。「撮影した映像で短編を作ったら、とても良かった。長編にできると思いロケを続けた」。2年にわたる同行ロケは、3カ国33カ所に及んだ。 カメラと一定の距離感を保ちながら、その場限りで生まれる踊り。しなやかな肉体に見とれる観客やカメラと田中のコミュニケーションの表出でもある。 田中は1970年代に裸体での踊りをはじめ、78年にパリで大反響を得た。日本では2002年に映画「たそがれ清兵衛」で銀幕デビューし、俳優としても活躍が続く。 一方、山梨の村では農業にいそしみ、「畑仕事で体をつくり、その体で踊る」という信条を持つ。「ダンスのために体を鍛えるという考えとは正反対にある。効率や経済優先の社会にあって、社会のシステムの歯止めになっている」と犬童監督。東京での仕事の合間に山梨に戻り、黙々と土をいじる姿を見続けた。 原点にある山村での少年時代のエピソードはアニメーションで組み立てた。「大人としての哲学と考えを見せる上で、過去が重要視されている。生き方の根幹に触れることができる部分」。現在の映像に挟み込む繊細な作画が、環境と一体になる場踊りの源流へといざなう。 静岡シネ・ギャラリーで18日から。シネマイーラ(浜松市中区)で4月1日から。