オリンパスやHOYA、富士フイルムの3社が使い捨て内視鏡の開発を急いでいる。新型コロナウイルス禍などで病院の感染対策が厳しくなり、従来の再使用型ではなく使い捨て型の需要が拡大しているためだ。内視鏡は最も市場規模が大きい消化器向けで、国内3社が9割以上の世界シェアを握るが、滅菌消毒済みの使い捨て型では出遅れていた。この分野で先行する欧米勢がコロナ流行による市場変容で優位に立っており、競争が激しさを増している。
内視鏡は細長い管状の医療機器で、カメラや治療用の処置具を搭載する。洗浄や滅菌を繰り返す再使用型が主流だ。ただ、最近では医療従事者の作業負担が増しており、滅菌の手間が省け、袋から取り出しすぐに使用できる使い捨て型のニーズが高まっている。
使い捨て型は価格が再使用型の10分の1程度で、集中治療室(ICU)、救急現場、感染リスクの高い手術や検査で使われるケースが増えているという。
JPモルガン証券のリポートによると、使い捨て型の世界市場規模は2030年に21年の9.6倍の約48億ドル(5450億円)まで拡大し、再使用型を超え、内視鏡の〝ゲームチェンジャー〟になり得ると予測する。
使い捨て型はデンマークの医療機器メーカー、アンブが世界で初めて開発した。同社が最大手で、21年は約150万本を販売。日本国内でも展開する。米医療機器メーカーのボストン・サイエンティフィックも気管支向けや十二指腸向けのほか、胆管、尿管向けを販売しており、欧米勢がリードする。
使い捨て型の需要拡大を受けて、国内勢は危機感を強めている。消化器向けで世界シェア7割のオリンパスは昨年、呼吸器分野に強い米医療機器メーカー、VMTを買収し、使い捨て型事業に参入。コロナ禍で同分野の重要性が高まっており、今年4月に米国で気管支向けの販売を始めた。
アンブの元最高経営責任者(CEO)をアドバイザーに迎え入れ、4月に使い捨て型の専門チームも立ち上げた。現在は十二指腸向けなどの開発に着手しており、23年度までに世界市場に順次投入する。
竹内康雄社長兼CEOは「使い捨て型が再使用型を超えることはあり得ない」との見方を示すが、30年までの使い捨て型の市場成長率を年平均で15~18%と見込む。竹内社長は「医療現場の実態に合わせて、医師が使い分ける」と見ており、両タイプを提供することで、需要を取りこぼさないようにする考えだ。
HOYAも呼吸器向けを開発し、8月から欧州で試験販売を始めた。来年度以降、本格的に販売する予定だ。現在、日本を含め各国で販売承認の手続きを進めている。開発中の富士フイルムは「発売時期はいえないが、市場ニーズを受けて販売の準備を進めている」(広報担当者)という。国内勢は市場での優位性を確固たるものにするため、ラインアップを早期に拡充する。(黄金崎元)