日本列島上空にある人工衛星のイメージ(画像:航空自衛隊)。
2021年10月上旬、一部報道において防衛省が「宇宙巡回船」なるものの建造を検討しているというハナシが取り上げられ、話題になりました。これは、宇宙空間の警戒監視や人工衛星の修理および補給を担うための無人宇宙船とのことですが、いまいちイメージし難いのも事実です。現在出ている報道から読み取れる「宇宙巡回船」の目指す役割について、「宇宙状況監視」「人工衛星の長寿命化」をキーワードにしてひも解いてみましょう。【安全保障分野における宇宙利用のイメージ/宇宙作戦隊の所在基地】 そもそも防衛省は、2020年度に航空自衛隊内に「宇宙作戦隊」を発足させました。2023年度から宇宙状況監視(SSA)体制の本格的な運用を始めるためで、2021年度現在はその準備を行っている段階です。 宇宙状況監視の具体例として、防衛省は2020年度の防衛白書で「わが国の人工衛星にとって脅威となる宇宙ゴミなどを監視するためのレーダーと情報の収集・処理・共有などを行う運用システムの整備を進めている。」と述べています。さらに、目的を達するためJAXA(宇宙航空研究開発機構)などの関係機関や米国などの関係国との連携強化を図ることを挙げています。 今回、報じられた「宇宙巡回船」はここに関連するハナシなのですが、どうにも不思議な部分があります。とはいえ、それを理解するためには「宇宙状況監視」と「衛星の長寿命化」、2つの話が必要です。
2021年4月下旬、アメリカ宇宙軍トップのレイモンド大将(最右)と会談する航空自衛隊の井筒航空幕僚長(画像:アメリカ宇宙軍)。
まず宇宙状況監視、これは「宇宙状況認識」や「宇宙状況把握」とも呼ばれ、宇宙空間の安定的な利用や宇宙環境の変動による災害等のリスク低減を目的として行うものです。 そのために必要な人工衛星には、測位衛星や早期警戒衛星、通信衛星、気象衛星、画像収集衛星などがあり、それぞれ既存の衛星を流用したり、足りない分については新規に開発したりすることで対応していくことになっています。 すでにSSA衛星は、2026年度までに打ち上げることで計画が進んでおり、予算もそれに応じて配分されているので「宇宙巡回船」とは別のハナシだと考えられます。 宇宙状況監視の目的は、宇宙ごみ(スペースデブリ)とキラー衛星への対策です。宇宙ごみは使用済み人工衛星やロケット上段部分といった大型のものから、ネジ1本のような小さなものまで多種多様。これらが衝突して衛星が破壊される可能性が高まっていることもあり、世界中で対策が進められているところです。 キラー衛星は、他国が保有する人工衛星に接近して妨害・攻撃・捕獲するための、いわば攻撃用衛星といえるものです。宇宙空間に存在されると都合の悪い人工衛星を無力化するものであり、軍事機密に当たるために詳しい内容は明かされていませんが、一部の国ではすでに開発・実証実験が進められていると言われています。